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店主のささやき
小路口さんの作品を扱うようになってから富山へ行く機会が増えた。富山は昔の越中の国だが、山の多いところかなと思っていた。ところが、富山市は平らなところで、山があまりない。何故富山というのか不思議だ。越中でもないし。ある時、富山駅からタクシーに乗り、釋永岳さんの工房のある東岩瀬まで行った時のこと、運転手さんがかなり年配の方だったので、思わず聞いてしまった。「富山は平らな所なのに、何故山がついているのですか」。すると、その運転手さんは、「昔、このあたりを治めていた豪族が菩提寺を建立したが、そのお寺の名前が富山寺(ふざんじ)という名前だったそうで」と、富山の名前の云われを話してくれた。

ところで、その東岩瀬だが、ここはその昔廻船問屋が集まっていたという。ここから北前船と呼ばれていた船が多くの物資を日本の北、南へと運んで行ったのだ。いまでいう大商社のようなところだったのだろうか。なかでもここにあった森家は200万両の資産があったという。大富豪だ。それだけの物資の動きがあったのだろうか。当時の日本の経済力というのは世界でも有数のものがあったに違いない。日本の経済力は今に始まったわけではなく、その基礎はもう江戸の昔からのものだったのだ。

その東岩瀬にある釋永さんの工房には、これまで何度か訪れていたが、最近、隣にフランス料理家さんができた。もとの酒蔵をそのまま使って、キッチンと大きな一枚板からなる食卓が置かれたのだ。まるで、中世の僧院にあるような食堂を思わせるレストランとなった。これは珍しいと思いつつも、えてしてこの種のところは、外観はすばらしいのだが、味が今一つのところが多い。ところが、ここは別だ。中身が素晴らしい。味もさることながら、シェフが素晴らしいのだ。従って料理とサービスが良い。本当に良い。だから、富山に来るたびにここの料理を堪能している。今回の小路口展にさきがけ出来上がった作品を見に行く時にこの店に寄った。勿論、釋永さん、隣の木彫作家の岩﨑さん、それに小路口さんの4人で昼食を御馳走になった。本当に御馳走で、一つにシェフが特別に献立を組み立ててくれたのと、作家の皆が私を招待してくれたのだ。ごちそうさま。いつも美味しいのだが、その日は特別に美味しかった。おまけにワインまでも。ありがたい。

で、何を食べたのかと聞かれそうだが、これが覚えていない。いや、覚えているのだが、思い出せない。これには困った。食事は、何を食べたかも大切だが、実は、誰と食べたかがもっと大切なことなのだと言い訳しよう。

(注:前回のささやきからのつづきは次回に)

酉福店主 青山光雅

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