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鹿倉桂子作「革と漆・アイビー文切継盛器」
すっかり恒例になった「漆の美展」を見てきた。明治神宮の玉砂利を踏んで会場へ向かうのも、なんだか儀式めいて悪くない。
この展覧会は、昨年秋に催された第10回「漆の美展」の出品作品に、明治天皇、昭憲皇太后の御物や海外からの作品を加えて展示するもので、1カ月を超える開催期間といい、約200点という出品点数(人数では約120人)といい、漆専門の展覧会としては国内屈指のスケールといっていいだろう。
田口義明作「飾箱“浜”」
古関六平作「ほたるの旅立ち」
高橋節郎作「山の端に月の出る」
隼瀬大輔作「包」
三谷峰代作「段違飾棚 松、鶴、秋草文」
しかし、規模の大きさもさることながら、最大の特徴は、この展覧会が主催する日本漆行協会の会員展であるということだ。協会の会員には作家、職人はもちろんのこと、漆を扱う商店から漆愛好者まで、漆にかかわるあらゆる人たちがいる。会員展なので出品は無審査。ということは、プロでもなんでもない愛好者の作品と文化勲章受賞者の作品が平等に展示されるという事態が起こるのである。それを非常識だと思う人は、ぜひ一度会場へ出向くべきである。
伝統技法を極限まで追求した飾箱がある。現代的なオブジェがある。圧倒的な迫力の屏風絵がある。小さな人形がある。素人目にも微笑ましくなる茶碗がある。職人技の極みの飾棚がある。そしてやんごとなき方々の身の回りの品々もある。これは一種アナーキーな世界である。上手、下手、形、素材、技法、一つ一つがみんな違うのだ。これだけ違うと、そこに立ちのぼってくるのは「漆」そのものである。
協会の専務理事で、ご自身も連作「霊峰讃歌」を出品している丸山高志さんに案内していただいたのだが、丸山さんはこういう。
「いま漆というと、蒔絵か塗りかだけになっていますが、ほんとうはもっともっと幅広いものなんです。たとえば漆皮(しっぴ)といって皮を素地とする技法が昔ありました。それが最近また注目されています。この『革と漆・アイビー文切継盛器』はもともと皮工芸をやってた人が漆を使って作った作品です。素地は、四角い一枚の皮を、四隅を切って折っただけで、非常に簡単なものです。漆は浸透力が強く、それをボディー(素地)にしみ込ませて固める、すべてはここから始まるわけですが、なるべく素地作りを簡単にすれば、たくさんの人が漆を楽しむことができます。それも我々のテーマの一つなんです。もう一つ例をあげれば、『回生 ココナッツの器』を見てください。これは枯れたココナッツの葉に漆をしみ込ませて固めたものです。面白いでしょう。形がとっても斬新です」
木工とか皮とかやきものとか、異なるジャンルの人が漆を使う傾向が見られるのだそうだ。もともと漆をやっていた人が皮を取り入れるのと、皮をやっていた人が漆を使うのでは、視点や切り口がまったく違うという。
増田順一作「モチの木 柄付盛器」
森富士子作「回生 ココナッツの器」
丸山さんはこうもいう。
「あそこに印籠があるでしょう。あれは細かい仕事なんです。若くて体力があり、目もよく見えるときは、印籠もいいでしょう。でも年をとってからはできません。特に昔なんか、眼鏡なんかないですからね。でも漆にはいろんな技法があり、年をとってからでも楽しめるものがいくらでもあります。そもそも制作というものは、個人の成長と一緒です。みなさん、どうしてもきれいなものをやりたがるけれど、簡単なものでも無骨なものでも、それなりに楽しめるし、それなりにいいものが作れますよ」
丸山高志さん
作品には「文部科学大臣奨励賞」「日本漆行協会会長賞」などの札が添えられているものもある。しかし、この展覧会はいわゆる公募展ではない。長年の実績や功労に対して贈られているのだそうだ。
最後に、今回も付け加えておきたい。会場には丸山さんはじめ協会の方が何人か必ず詰めているはずである。素朴な疑問から専門的な質問まで、なんでも答えてくれる。ぜひ声をかけることをお勧めする。というのは、漆は目には見えない部分にさまざまな物語を隠し持っている工芸品なのである。丸山さんたちは、それを知ってもらいたくてウズウズしている。遠慮などは無用だ。
丸山高志作「霊峰讃歌=桜花への祈り=」
なお、会場の入口には「蒔絵体験コーナー」も設けられているから、試してみるといいと思う。何十冊の本を読むより、30分の体験のほうが理解を深めること請け合いである。
「日本文化を担う・漆の美展」は2003年2月8日(土)から3月10日(月)まで、明治神宮文化館宝物展示室(TEL. 03-3379-5875)で開かれている。時間は9時〜16時(ただし入場は15時30分まで)。拝観料500円が必要。
文と写真: 岡崎 保
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