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大西長利さん
藝大名誉教授、世界漆文化会議議長、乾漆では日本の第一人者、千葉県印旛郡印旛村に工房を設け、自宅に帰ることはほとんどなく、5人の弟子たちと寝食を共にし、制作に打ち込む日々・・・などと書くと、雲の上の人、仙人とか行者のイメージだが、実際の大西さんはとっつきにくくもなければ、無愛想でもない。
朝は7時に起き、お弟子さんたちと一緒に掃除をしたり食事の支度をする。制作は9時から夕方6時まで。いや、6時に終わるのはお弟子さんたちで、大西さん自身は夜の9時まで仕事を続ける。そして晩酌。11時には就寝。これの繰り返しで、土、日も休むことはない。大西さんの気さくさに、つい忘れてしまいがちだが、本質は体を切ったら血の代わりに漆液が出るのではないかと思われるほどの「漆の人」なのである。
「作っているのは全然疲れない。仕事しないと疲れちゃう。東京で会合があって出かけたりすると、もう疲れちゃって・・」
乾漆朱の筥(小さいほうから「如」地、「如」水、「如」火、「如」風)
乾漆茶わん「金彩」
乾漆朱の注器
大西さんの作品で有名なのは、卵型の器だろう。これは不思議な造型で、見ていると心が安らぐ。完全な球体だとこうはいかない。多分緊張を強いられるだろう。
「私は日本のやさしい風土を造型化しているつもりです。日本の風土はそんなにゴツゴツしていない。大平原があるわけでもない。ほどよい山があり、ほどよい平野があり、清流が流れている。非常に人間的な風土です。それを表現しようとすると、自然にこういう形になるんです。これらの作品の表面は、毅然としているというより、揺れ動くんです。そして周囲の空気を乱す。やさしくね」
大西さんが常々言っているのは「五感に訴える」ということだ。漆ではこのことがとても大切だという。ただ見るだけでは漆のよさはわからない。触れて、長年使って、漆ははじめて完成する。卵型の器たちが発するやさしい空気の揺れ、それが私たちの肌に触れ、心が安らぐのである。今回、ザラザラした肌合いの作品がたくさん見られるのも、より触感に訴えようとする大西さんの姿勢の表れだ。秀吉の金の茶室を思わせる金の茶わんは、長く使っていると、下から黒が現れるはずだという。金色の根来になるわけだ。「晩酌マイカップ」という愉快な銘を持つシリーズについて、大西さんは楽しそうに話す。一人称が「私」から「ぼく」に変わった。
晩酌マイカップ「乾漆朱と黒」、手前は「乾漆杯銀と黒」
乾漆朱の器「容」
乾漆白檀茶わん
乾漆朱黒彩
「ぼくはね、晩酌の時間、空間が大切だなあと思ってる。一杯でいいんだ、呑みすぎちゃいけない。漆のやさいい肌を五感で感じながら、一日の疲れをとる。明日への深い安らぎを得る。この器が、これから愛用することでどいう美しさに変わっていくか、それは使う人の楽しみであり、ぼくの歓びでもある。これで晩酌やれば、絶対元気になる!」
五感に訴えるには、作るほうも五体全部を使って作るのがいちばんである、と大西さんは言う。漆を直接指で塗る。「うまくしたもんで、そのうちかぶれなくなる」のだそうだ。ときには口を使ったりもする。
「特に人指し指なんか、大日如来の指ですよ。どんな小さなゴミでもわかる。真言密教では印を結ぶとき(といって忍者がドロンと消えるときの指の形をつくる)人指し指を手で隠すでしょう。それだけ人指し指は大事な指なんです。それから、音です。弟子たち5人が同時に仕事をしてるでしょう。いまどんな作業をしているか、音でわかります。布を貼っている音、研いでいる音、同じ研ぐ音でも、先端を研いでいるか中を研いでいるかも音でわかる。リズムなんかで、うまくいっているかどうかもわかります」
6月には大西さんの作品を常設展示するギャラリーが小田原にオープンする予定だそうだし、7月には、ライフワークの漆文化源流調査でチベットに出かける計画もある。インタビューの最後のほうは、「漆の人」そのものの口調になっていた。
「チベットの、あの素晴らしい文化を見てみなさいよ。目が洗われるどころじゃない、魂が洗われちゃうよ。行ってみなきゃわからないよ」
「大西長利乾漆展」は2003年3月13日(木)から3月19日(水)まで(16日は休み)東京・青 山のギャラリー「酉福」(港区南青山2-6-12 アヌシー青山1F・TEL 03-5411-2900)で開かれている。時間は10時30分から18時30分(最終日は16時)までで、15日、19日は大西さんが会場に詰める。
乾漆朱の器「笹舟」、乾漆黒の器「笹舟」
乾漆朱と黒の筥(台は「欅拭漆卓」)
乾漆朱の器「願船」
乾漆朱の器「朱涛」
文と写真: 岡崎 保
大西長利(おおにし・ながとし)さんのプロフィール
1933年
山口県下関市に生まれる
1959年
東京芸術大学漆芸科卒業。翌年から漆芸科研究室で松田権六、六角大壌に師事、根来塗り研究に取り組む
1980年
文部省研究員としてイギリスに留学
1984年
この年からライフフワークとなるアジア漆文化源流調査を開始。中国、韓国、ベトナム、ミャンマー、タイ、チベットなどを歴訪する
1986年
個展「大西長利漆芸展」
1989年
東京芸術大学 教授
1991年
個展「大西長利漆空間展」
1992年
世界漆文化会議創設。議長に就任
1999年
個展「San Diego International Mingei Museum」
2000年
個展「大西長利の世界展」
2001年
東京芸術大学 退官され名誉教授となる
個展「大西長利退官記念展」東京芸術大学美術館
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