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展覧会見て歩き

漆という素材と「時間」豊田正秋展「継続する記憶 Part

 ほぼ目の高さに20点ほどのレリーフが展示されている。予備知識なしに、初めてこれらの作品を見る人は、これが漆でできているとはわからないだろう。

 1999年に始まった「継続する記憶」シリーズも今年で5回目。豊田さんのテーマの一つは漆の表現の幅を広げる、つまり従来の漆にはない「漆」を創り出すことだが、今回も新しい「漆の表情」に出会うことができる。一例としてメタリックな作品(豊田さんの作品にはタイトルがない)をあげよう。これは銀の消し粉を全面に蒔き、一部に拭き漆を施したものである。このくすみが何ともいえない「古さ」、つまり時間の流れを感じさせる。豊田さんが新しい「漆」と出会ったその驚きが、見る側にも伝わってくるような作品だ。
 さらに今回の大きな特徴は、具体的なフォルムが登場してきたことだろう。
 「以前は、モチーフが具体的なものでも、それを抽象化して、シンプルな造形を心掛けていました。でも最近は、直接的、具体的なものも、もう少し取り入れてもいいのではないかと思うようになったんです。具象的なフォルムにもきれいなラインとか、よさがあるんじゃないかと。また、そのことで見る側とのコミュニケーションの幅が広がるかもしれない」

 それは見る人への歩み寄りと解釈していいかと、怒られるかなと思いながら質問してみた。

 「そうですね。これまでは、自分がいいと思えば見る側もいいと思うに違いないという気持ちで作っていた。今回は、直接的な方法を使うことで、もう少し見る側とコミュニケーションをとるのもいいんじゃないかと思ったんです」

 豊田さんの作品は基本的に脱活乾漆という技法で作られている。まず粘土で原形を作り、石膏でその型をとって雌形とする。雌型に布を張り、漆を何層にも塗り重ねる。そして最終的には型を外すのである。「石膏の型を割るときは発掘みたいな感覚になります」と豊田さんは面白い表現を使った。

 解説するとこういうことだ。漆という素材はとにかく時間がかかるのである。どんなに急いで制作しても、2、3カ月はかかってしまう。だから、型を外すころは、自分がどういう気持ちで作品にとりかかったかは遠い感覚になっている。それを思い出し、確認しながら型を割る作業を、豊田さんは「発掘」といったのだ。

 また、豊田さんによれば、「脱活」という言葉は、昔、仏像などが作られたときに使われた言葉で、「型から外す(脱)ことで型の存在が活きてくる(活)」という解釈があるようだ。「発掘」という表現の背景には「脱活」という言葉の存在を見ることができると思う。

 いずれにしろ、時間がかかる漆こそが時間を表現するための最高の素材ではないか、と豊田さんは考えているに違いない。

 最後の作品、といっても会場を時計回りに見ていった場合の話だが、1点だけレリーフではなく立体の作品が展示されている。

 「これはラジオみたいですねと言った人がいましたが、見る人が何かに見立てて記憶を呼び覚ます、そのための装置のようなものであればよいと思っています」

 豊田さんは空間とかすき間、余白などをとても大切にしている。とりわけ奥行きをどう出すかは、レリーフを手がける豊田さんにとって最重要問題である。この立体作品には表と裏(正面と背面というべきか)があり、ある意味ではレリーフの一種ともいえるが、とすれば、この作品が抱え込む空間は無限の奥行き、すなわちレリーフの背景が突き抜けたものと考えることも可能だろう。そしてこの空間は、もちろん過去(記憶)に、と同時に未来(継続)にも通じている空間なのである。





「継続する記憶Part 5」は2003年6月16日(月)〜6月24日(火)まで、東京・銀座のコンテンポラリーアートNIKI(中央区銀座6−11−4 ニックス銀座ビル3F TEL.03-3575-0506)で開かれている。

文と写真: 岡崎 保 




豊田正秋さんのプロフィール
1963年 大阪生まれ
1985年 多摩美術大学グラフィックデザイン科中退
1989年 東京芸術大学美術学部工芸学科卒業
1991年、同大学院美術研究科漆芸専攻修了
その後、漆作家として活動を開始。1999年に始まった「継続する記憶」シリーズは今年で5回目。

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