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展覧会見て歩き
 ものの本によれば、鎌倉彫は鎌倉時代、中国から禅宗とともに伝わった堆朱・堆黒(つ いしゅ・ついこく)を真似ようとしたのが始まりのようだ。堆朱・堆黒は漆を分厚く塗り 重ね、そこに彫刻するという技法だが、同じようなものを作ろうとした仏師や宮大工たち は、木に直接彫刻して、そこに漆を塗る方法を考え出したのだ。塗りについていえば、「 乾口塗」(ひくちぬり)といわれる独特の技法を使う。これは朱漆の上塗り後、漆が乾く 寸前にマコモの粉を蒔きつける方法で、こうすることで凹凸の陰影が一層強調されるとい う。


小園敏樹「屈輪文丸盤」

小園博「手刳麦文箱」

橘川和男「花冠」

 しかし、この展覧会の企画者であり、会場を案内してくださった学芸員の松尾子水樹さ んによれば、「乾口塗でなければいけないとか、細かいことはいいません。木を彫って漆 を塗る、それが鎌倉彫です。ただ、作り手たちにいわせると、彫りを重視するということ はいえると思います」ということになる。

 今回の展覧会は、日本現代工芸美術展に連動する企画展としての位置づけなので、展示 されているのは従来の伝統的な鎌倉彫作品ではない。日本現代工芸美術展は、用の美を離 れ、純粋に美術として成立する作品をめざす試みであり、鎌倉彫のほうもその趣旨に連動 した作品を集めたのである。出品者数は25人、総点数48点ということだ。

 ところで、伝統(この場合は鎌倉彫)に対してはいくつかの立場が可能だろう。守る立 場、時代に合わせて変えていく立場、変えていくにしても、あくまでも伝統の中にとどま って変えていこうとする立場、あるいは根本から変革し、伝統を一新しようという立場も あり得るだろう。松尾さんもいっていたことだが、この展覧会の面白さは、「いい意味で 振り切らない」点にあると思う。たしかに斬新だが、伝統との接点が見い出せないような 作品はない。のけぞるような衝撃的な作品というよりは、どれもみなじっくりした鑑賞に 耐える、完成度の高い作品ばかりである。


竹内佳夫「刳舟」

奥西風生「金魚3」

奴田伸岳「波」



岩澤健吾「鯉文大皿」(手前)「韻」(奥)

奴田伸宏「水盤(すいれん)」「花器」

大石雅樹「角盆」

木内隆男「春風」
 さらにいえば、伝統に対する立場は、人によって違うばかりではなく、同じ一人の作り 手の中にも複数の立場があるということにも気づいた。たとえば岩澤健吾「鯉文大皿」と 「韻」は、いきいきとしてダイナミックな鎌倉彫の特徴を印象的な色使いで強調した前者 に対し、後者は器の表面にノイズのように掘られた傷が、全体の静謐さを際立たせている 。これは単に傾向の違いというより、鎌倉彫に対する作者の姿勢の分裂ととらえたほうが 、ずっと興味深い。

 同じことは奴田伸宏「水盤」にもいえる。表面の均質な仕上がりはまるで合成樹脂のよ うで、ゴツゴツした鎌倉彫のものではない。しかし、水面に浮かんだ花や葉の造形は鎌倉 彫そのものといっていいだろう。このように、一つの作品の中にいわば二つの鎌倉彫が同 居しているのである。

 大石雅樹「角盆」も新鮮である。私たちが知っている鎌倉彫の特徴を一つ一つ殺しにか かっているようだ。つまり木であること、朱漆であること、ゴツゴツした表面であること 、ここにはどれもない。従来の鎌倉彫を情念とすると、これは知性である。
 幾何学的な構成をもつ大石作品とは対照的に、木内隆男「春風」は優美な曲線で、まさ に風を描いたものである。写真ではわからないが、蝶の鱗粉が風に流れるさまもかすかに 描かれており、こんなやわらかさが鎌倉彫で表現できるとは驚きだ。

 鎌倉彫は平面に掘られた彫刻だが、立体として立ち上がることは十分想像できる。だか ら奥西風生の金魚をモチーフにした3つの立体作品には、違和感はない。「これはありだ な」と思った。
 後藤俊太郎「飾額 椿」の迷いのない剛直なまでの彫りの迫力、三橋昌山「花舞い」「 花惜しむ」の女性らしい繊細、2人の重鎮の対比も楽しかった。




後藤俊太郎「飾額 椿」

三橋昌山「花舞い」「花惜しむ」


「鎌倉彫を通して鎌倉を活性化する試みができるんじゃないか。ものを作る喜び、それは受け入れられやすい部分だと思うのです。鎌倉彫は自分で作って、見て、さらに使って楽しむことができる。それをもっと広げて、新たな鎌倉の魅力としてパワーアップされることを願っています」
 松尾さんの思いが伝わってくる展覧会である。

「鎌倉彫・・・古都の記憶」は2003年7月2日(水)から7月24日まで(7日、22日は休館)、横浜市中区山下町3−1の神奈川県民ホールギャラリー(045-633-3794)で開かれている。時間は午前9時から午後6時まで。入場料は一般500円、学生400円、65歳以上および高校生以下は無料。なお、7月5日(土)の午後2時より県民ホール6階会議室で、小園博さんの「鎌倉彫を創る、みる、使うことに関して」という関連イベントがある。入場は無料。

文と写真: 岡崎 保 


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