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前回、赤木さんを取材させていただいた個展の会場は、京都の古い町家だった。今回の会場は小田原の老欅荘という風情ある日本家屋である。ここは電力王で茶人の松永安左ヱ門(耳庵)が晩年住んだ家だそうだが、6部屋ほどの複雑な造りで、面白い建物である。
赤木さんにお会いしてすぐ、「赤木さんは会場にもこだわりがあるのですか」と思わず聞いてしまった。その老欅荘のすべての部屋に展示された器が330点あまり。こちらの部屋からあちらの部屋へ、部屋べやを経めぐりながら鑑賞するという趣向が楽しい。
入ってすぐの展示。四角いものも。
天廣杯
小振りの椀のバリエーション
赤木明登さん
日の丸大盆と三つ椀
正法寺椀
楡の鉢
赤木さんは今年、独立10周年なのだそうだ。それを記念して12月に「千椀展」を開くという。お椀を1000点(!)展示するのである。その制作の流れの中での展覧会なので、メインはもちろんお椀。さまざまなバリエーションを堪能できる。と同時に、10年一区切り、来年からの新しい赤木さんをうかがう展覧会でもある。
赤木さんといえば和紙を貼った器だが、どうやらそれが変わるらしい。
「和紙を使う仕事を始めて10年。その間、200を超えるアイテムを作ってきて、だいたい作りたいものはみんな作ったという感じなんです。そこで来年からはまったく新しい、和紙に頼らない塗り方のシリーズを始めようと思って、すでにいろいろ試行錯誤をしています。一つはきちんとした輪島塗をやりたい。輪島というと蒔絵というイメージですが、それは明治以降の話で、江戸時代までの輪島塗は、無地の非常にきれいな塗りなんです。それを手がけてみたい。それからもう一つは、少し荒々しいラフな感じのもの。いわば角偉三郎さんのイメージですが、いままでぼくが避けてきたものです。でも一度試してもいいかなあと」
その具体例が「正法寺椀」であり、「楡の鉢」ということになる。赤木さんの朱の椀は内側と外側では微妙に色が異なる。これは外側には通常の朱漆を使い、内側にはベンガラを使うからだ。通常の朱漆は透漆に硫化水銀を混ぜて作る。伝統工芸ということで規制は免れているが、赤木さんは硫化水銀を内側には使わない。また、ベンガラの刷毛で外側の朱を軽くシュッシュッとこすると、ベンガラは酸化第二鉄なので、根来のような味が出るのだ。写真では見えないと思うが、これが赤木さん独特の「能登根来」である。
一方「楡の鉢」は、一見しただけで、これまでの赤木さんにはなかったものだとわかる。李朝の写しだそうだが、底はノミではつったままで、自然な感じを残している。
赤木さんは「千椀展」と同時開催で茶箱展を開く。茶箱もいま赤木さんが熱中しているものの一つなのだ。何とも楽しい作品だが、ご本人は「お茶の決まり事とは関係なく作っているので、お茶をやっている人からは見向きもされない」と苦笑する。茶碗や茶筅、茶杓、香合、菓子器などを、ままごと感覚で出し入れするのが茶箱の楽しみだが、楽しみはそれだけではない。赤木さんにとっては、やきものや金属の人たちとの共同作業、コラボレーションが楽しいのだ。「旅持ち茶箱」でいえば、茶碗は安藤雅信さん、金属は長谷川竹次郎さんの作である。「甲高茶箱」では茶碗が内田鋼一さん、銅の茶入れが畠山耕治さんの作。仕服はヨーガン・レールさんという顔ぶれである。茶箱展はだから5人展になるのだ。
「普通、お茶箱は古いものをあれこれ集めて組み合わせるのが楽しいわけですが、ぼくは、いま、ものを作っている人間なので、新しいものだけで組み合わせています。順番は、まずお茶碗を焼いてもらって、それに合わせてぼくがやわらかいものを組んでいきます」
茶箱を扱うときの赤木さんの顔は、ほんとうに楽しそうだ。
旅持ち茶箱と中身
茶入れ
甲高茶箱(箱・中身・内部)
金彩・銀彩の丸皿
パン皿
手鞠椀ところり
やりたいことは他にもいっぱいある、と赤木さんはいう。ちょっと意外だったのは、陶体漆器をやってみたいということだった。たしかに漆は何にでも塗れる。ただ、木との相性にこだわっているのではないかと、勝手に思い込んでいたからだ。しかし、赤木さんの説明を聞いて納得した。
「漆は分業ですから、木地は他の人に頼まなきゃいけない。それはそれで良さがあると思うのですが、自分の手で形も作りたいという欲求が常にあるんです。自分で作った形に漆を塗ってみたい。だから、少しずつやきものも試しているんです」
赤木さんは、いま漆ではもっとも人気のある作家の一人だろう。漆は自然のものだから、そのぬくもりばかりが強調されるが、赤木さんの器の持つ静けさや気品は、むしろ一種の冷たさに属している。シガラミの巷から見上げると、凛として涼しげなその姿は、憧れずにいられないのかもしれない。
「赤木明登 漆展」は2003年9月6日(土)〜9日(火)までが小田原の松永記念館内「老欅荘」で、1日おいて11日(木)〜16日(火)は「うつわ菜の花」(小田原市南町1−3−12 TEL.0465-24-7020)で、11時から18時まで。
〔赤木さんからの伝言〕
赤木さんはいまお弟子さんを探しています。漆芸科卒の、作家をめざしている若い男性で、免許を持っている人、がベストだそうです。
[連絡先]
石川県輪島市三井町内屋ハゼノ木75(〒929-2374)
文と写真: 岡崎 保
赤木明登(あかぎ・あきと)さんのプロフィール
1962年 岡山県金光町に生まれる
1981年 中央大学文学部哲学科に入る
1985年 世界文化社に入社。「家庭画報」編集部に配属になる
1987年 日本橋高島屋で角偉三郎展を見て感動、輪島に角さんを訪ねる
1988年 会社を辞め、輪島に引っ越す
1989年 輪島塗下地職人・岡本進さんに弟子入り
1994年 年季明け、礼奉公の後、独立。和紙を貼った独自の漆器づくりを始める
1996年 ドイツ国立美術館「日本人と現代の塗り物十二人」に選ばれる
1998年 ヨーガン・レールの漆器を製作する
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