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↑これだけそろった写真は2年後の第3回展まで撮れないだろう。左から鳥毛、小椋、松本、松田、大谷の各氏
空前のグループ展である。規模という意味ではない。顔ぶれとレベル、そして趣旨において、極めて刺激的であり、漆芸界に旋風を起こしつつある。オーバーなことをいうな、 と思われる向きもあるかもしれない。しかし、こんなに“客の多い漆展”というものは、滅多にあるものではない。客が引きも切らず訪れ、会場に満ち、当の出展者が会場の外に押し出される始末。取材どころではない。
何はともあれメンバーを紹介しよう。大谷早人(籃胎蒟醤=注)、小椋範彦(蒔絵)、鳥毛清(沈金)、林暁(きゅう漆=注)、松田典男(蒔絵)、松本達弥(彫漆=注)。この日は林さんを除く5人が顔をそろえた。これも空前のことなのだが、理由は、おいおい説明する。
↑籃胎蒟醤香合「小紋」(大谷)
↑青貝盛皿(松田)
↑蒔絵飾箱「葛」(小椋)
↑十六弁木地溜塗盛器(林)
グループ展といえば、同じ地域に住んでいるとか、同じ学校の出身者、あるいは同じ師匠だとか、だいたい相場が決まっている。しかし、この6人は住んでいるところも、学校も、師匠も、技法もバラバラ。いったい何つながりなのか。
6人の共通点はただ一つ、全員が日本工芸会正会員ということだけである。ちなみに日本工芸会正会員というのは、日本伝統工芸展に4回以上入選しないとなれない。6人が並々ならぬ技量の持ち主であることは、これで保証されている。実際、毎回6人のうちのだれかが賞を獲る(今年は松本さん)。では、6人は正会員の中の特に親しいグループなのか、というと、これも違う。日頃、ほとんどつきあいはないという。それどころか、この展覧会は6人のバトルなのだという。
鳥毛
伝統工芸展などでお互い意識し合ってやっている。やるな、という感じ。彼らの作品が訴えてくるものに同調するものが自分の中にあるんです。それで、よし自分もがんばろうと。仲良しグループじゃなくて、将来にわたってバトルをやろうと。
松本
一生懸命やっている人たちの集まりですから、それぞれ認め合っている。心の中はライバルですけども。
小椋
仕事として認めている。いい仕事しているなと。この人と一緒だったら作品を並べてみたいなと思える、そういう集まりです。
6人展の話が出たのは3年前だそうだ。松本さんが奥さんとやっている二人展を、鳥毛さんと小椋さんが見に行き、帰りの電車で「みんなでやりたいね」という話になったのだそうだ。そして2年前の第1回展は、内外の評判を呼んだ。
第1回展も今回も、展覧会の時期は伝統工芸展に合わせている。伝統工芸展は日本橋、こちらは銀座、場所も近いので、伝統工芸展帰りに寄るお客さんが大勢いる。地方から来るお客さんなどの便宜を図る意味ももちろんあるのだが、しかし、むしろ、伝統工芸展にぶつけようという6人の気合のほうを強く感じる。
鳥毛
伝統工芸展は触れませんから、こちらで触って、五感すべてを使って見ていただけば、デパートの催しとは違うなあとわかってもらえると思います。
松本
この展覧会は、テーマなど一切決めずにやっています。ここに並べるまで、他の人がどんな作品を出すのか、まったくわからない。いったいどんな作品が並ぶのか、同じ作家として興味があるし、お客さんもそうだと思うんです。伝統工芸展のように入選作目当てに見るんじゃなくて、この6人のバトルをお客さんは見に来る。それも反響を呼ぶ原因になっていると思います。
↑四方盆「うさぎのゆりかご」(鳥毛)
↑彫漆松葉文八角箱(松本)
お客さんから解放されたスキをうかがって、松田さん、大谷さんにも加わっていただいた。
松田
とにかくメンバーがそろっていると思います。自分の個展だと、自由に好き勝手にできるけど、この6人展はせめぎあいですね。みんなと同じではつまらないから、それぞれ特徴のあることをしようとするでしょう。見る側は頭の中がグジャグジャになって帰っていくんじゃないかなあ(笑い)。
大谷
みなさん、それぞれ自分の世界をもっている。それに負けないように自分の生きざまを表現しなければと思っています。1回目はみなさん手さぐり状態で作品を出したんですけど、今回は勝手もわかって、存分に自分を打ち出そうとしているので、面白いですね。
鳥毛
ようし、みんなを驚かしてやろうなんて、わりと挑戦的になりますね。
小椋
背後に5人の目があって、グサッ、グサッと刺さるから、緊張感がありますよ。何だこれ、なんていわれたくないから。
松田 見る側もはっきりいいますから、あの先生のがよかったとかね。そりゃあ辛辣なものですよ。
この展覧会のための打合せとか反省会とか、そういうものは一切ない。会として今後どうするか、そんなことも一切考えない。2年に一度、真剣に切り結び、ものを作る人間として深いところで刺激し合う。期間が過ぎれば、得たものを胸に秘め、またそれぞれの仕事に散るだけである。仲良しグループの生ぬるさを潔しとせず、創造の荒野に吹き荒れる寒風の中の6人の侍(ちょっとオーバーかな)。
それぞれの作品についての取材者の感想は、今回は書かない。書けない。
沈金漆額「二重奏」(鳥毛)
木彫香合「鉄線」(松本)
乾漆花の菓子盆(林)
螺鈿重箱「プラクタル」(松田)
割貝蒔絵皿「菊月」(小椋)
籃胎蒟醤香合「小紋」(大谷)
〔注〕
●籃胎蒟醤(らんたいきんま)
籃胎は竹を編んだものを漆器の素地とする技法。籠のようにざんぐりしたものを素地にすると、どうしても民芸調の味わいになる。そこで大谷さんは木の型を作り、そこにきっちりと竹を編み込み、それを漆で固めて、固まったら型から抜くという方法をとる。蒟醤は漆面に文様を細かく線彫りし、その溝に色漆を埋めて研ぎ出す。従って、木型の木工、籃胎の竹、
蒟醤の漆、これらすべての技術が必要になる。
●きゅう漆
「きゅう」の漢字は「髪」という字の友の部分を休に置き換えた文字。漆を塗ること、あるいは下地から上塗りまでの工程を指すこともある。ここでは加飾をしないで塗りだけを見せる技法のこと。
●彫漆(ちょうしつ)
漆を素地に何層にも塗り重ねて厚みを出し、模様を彫り出す技法。いろいろな色漆を塗り重ねれば、彫る深さで色を出すことができる。
文と写真: 岡崎 保
「第2回 漆芸作家新鋭六人展」は2003年9月30日(火)〜10月11日(土)まで、東京・銀座7−2−22 同和ビル1F ギャラリー田中(TEL.03-3289-2495)で開かれている。時間は11時半〜19時(最終日は17時まで)。日曜は休み。
6人のプロフィール
(五十音順。1人6、7行にしたため、ほとんどの受賞歴を割愛します)
●大谷早人(香川県在住)
1954年 香川県高松市生まれ
1973年 香川県立高松工芸高校漆芸科卒。人間国宝太田儔氏に師事
1976年 第41回香川県美術展覧会に初入選
1978年 第25回日本伝統工芸展に初入選(以後19回入選)
1981年 香川県漆芸研究所研究員課程を修了
1998年 日本伝統工芸展高松宮記念賞受賞
●小椋範彦(東京都在住) 1958年 岡山県生まれ
1982年 安宅賞受賞
1983年 東京芸術大学工芸科卒
1985年 東京芸術大学大学院美術研究科漆芸専攻修了。1998年まで人間国宝田口善国氏の制作助手
1991年 第38回日本伝統工芸展東京都知事賞受賞
2000年 第40回伝統工芸新作展監査委員
●鳥毛清(東京都在住)
1955年 石川県生まれ
1974年 石川県立輪島実業高校木材工芸科卒
1975年 人間国宝前史雄氏に師事 沈金を習う
1977年 第24回日本伝統工芸展初入選
1978年 石川県立輪島漆芸技術研修所沈金科修了
1998年 第15回日本伝統漆芸展東京都知事賞受賞
●林 暁(富山県在住)
1954年 東京都生まれ
1978年 東京芸術大学美術学部工芸科卒
1980年 同大学院修了
1996年 第43回日本伝統工芸展日本工芸会会長賞受賞
現在、高岡短期大学助教授
●松田典男(千葉県在住)
1951年 山口県生まれ
1977年 東京芸術大学美術学部工芸科漆芸専攻卒
1979年 伝統工芸新作展東京都教育委員会賞受賞。日本伝統工芸展初入選
1987年 伝統工芸新作展監査委員
1991年 日本伝統漆芸展日本工芸会賞受賞
現在、朝日カルチャーセンター講師(漆芸・蒔絵)
●松本達弥(千葉県在住)
1961年 香川県生まれ
1980年 香川県立高松工芸高校漆芸科卒
1985年 香川県漆芸研究所研究員課程を修了
1986年 人間国宝音丸耕堂氏、淳氏に師事(4年間内弟子)
1987年 第34回日本伝統工芸展に出品(以後10回入選)
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