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三田村さんは今回新しいことに挑戦している。「絵の一部が取り外し可能」な作品を発表しているのだ。奇想、といっていいのではないか。よくそんなことを考えつくなあ、と思う。三田村さんの頭の中はいったいどうなっているのだろう。
↑「月の宙」
↑「月光の宙」(部分)
↑「羽ばたく頃」
↑「深い記憶」
「月の宙」と題された額に入った連作は、たとえば月が描かれた半円形の部分を外し、それがそのままブローチになるのだ。外されたほうの絵は、それはそれで作品として完成されているから、そのまま飾っておけるというわけである。装身具という発想自体は、珍しいものではない。櫛、かんざし、印籠など、装身具は漆芸の重要なアイテムだったし、いまもアクセサリーを作る人は少なくない。しかし、それを一つの絵の中にはめ込み、取り外し可能にした作品は、おそらく初めてだろう。
「一生懸命考えたんです。順序として装身具をまず考えたのではなく、最初は、生活の中に取り外し可能なだまし絵のようなものがあったら面白いなと考えたんです。じゃあ、その取り外したものはどこにいくのか、と考えたときに、装身具として身につけてもらおうと。いろんな形で楽しめるものを作ろうと考えたわけです」
作家と職人を分ける要素のひとつは、独自の技法の発明である。自分が専門とする伝統的な技法の完成をめざすのが職人だとすれば、作家は伝統的な技法を改良したり、まったく別の発想から新しい方法を編み出したりする。なぜそんなことをするかといえば、作家にとって技法は手段にすぎない。表現したいものがまずあって、それが従来の技法で表現できないとすれば、新しい技法を考案するしかない。
三田村さんの重要なテーマに「時間」がある。時間を表現するために発明した技法が「重ね研出」である。これは研出蒔絵を何層にも重ねることで時間を表現しようという方法だ。私たちは古い地層が露出しているのを見たりすると、悠久の時の流れを感じたりするけれど、層というのは時間なのである。作品例でいえば、「深い記憶」には何層にもアンモナイトが描かれていて、じっと見つめていると引き込まれそうになる。「宙の宴」は夜空の星雲のようで、時間というテーマは無限の空間というテーマに密接に係わっている、いや同じではないのかなどと思ったりもするのである。
三田村さんのもうひとつの重要なテーマは「月」である。「月への道」は、月へと上る階段が描かれていて、なつかしいメルヘンの世界を現出している。サイズ的には小さい作品なのだが、幼児期の夢のように、孤独で、広大で、深い。
↑月への道(部分)
↑宙の記憶
「月がいろんなものを司っているんじゃないか、と思っているんです。地球上の命というのは、太陽の力じゃなくて、月のリズムに支配されているんじゃないかと。実際、人間の生活は月の魔力みたいなものに影響されています。月への階段なんてあり得ないけれど、実際に見えたんですよ。スペインのある場所に岩山があって、そこに上るのが大変そうな階段があったんです。夜になって、その同じ場所に佇んでいると、月が昇ってきて、その階段を上ると月へ行けるんじゃないかと思ったんです」
昼間見える光景よりも、夜、昼間の記憶と月の魔力で見えてくる光景のほうに、三田村さんは「時間」を見ているのである。普通、時間は見えないけれど、そのとき三田村さんは確かに「時間」を見ていて、作品に定着する。三田村さんの目を通して、私たちは「時間」を目の当たりにすることになる。ある種の切ない体験として。
「楽しいです、仕事をさしてもらえるのは。ありがたいです、こういう(制作の)時間をいただけるのは」
三田村さんは芸大の先生なので、自分の制作は深夜とか休日にならざるを得ない。少ない時間をやりくりしての制作だが、楽しくてしょうがないという。制作モードに入ると、ほとんど寝ないのだそうだ。たとえば10の作品を同時並行的に作ると、最後の10番目の作品が終わったころは、最初の作品が乾いていることになり、休む暇がないのだ。
「だから蒔絵筆を持ったまま寝ちゃうことがあるんです。30分ぐらいして目が覚めると、とんでもないことになっていて、全部やり直しなんていうこともあって、ひどいもんですよ(笑)」
深夜、夢中で制作に没頭する三田村さん、三田村さんの風貌、作品の印象、などなどからある言葉を思い出した。
「天才とはつまるところ、意のままにとり戻される幼年期」(ボードレール)
降り注ぐ光
光の彩り
竹の光
「三田村有純漆藝展」は2003年10月30日(木)〜11月8日(土)まで、東京都中央区銀座7−2−22 同和ビル1F ギャラリー田中(TEL.03-3289-2495)で開かれている。時間は11時30分〜19時(最終日は17時まで)、会期中は無休。
●東京芸大美術館で開かれている「工芸の世紀」展関連イベントの講演会が11月9日(日)にあり、三田村さんも講演する。詳しくはトピックス欄参照。
文と写真: 岡崎 保
三田村有純(みたむら・ありすみ)さんのプロフィール
1949年
東京生まれ(祖父自芳、父秀雄とも漆芸家)
1975年
東京芸術大学大学院美術研究科漆芸専攻修了
1998〜99年
漆を通した国際交流の調査でベルギー他11カ国で在外研究
受賞
日展 特選2回受賞、審査員3回
現代工芸展 現代工芸賞、会員賞など、審査員2回
収蔵
東京都現代美術館 サントリー美術館 東京芸術大学美術館、台湾漆文化博物館など
著書
『父の背を見て』(共著/里文出版)、『再美日本』(共著/里文出版)
現在
日展評議員 現代工芸美術家協会評議員、日本うるし文化研究所副理事長、東京芸術大学助教授
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