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展覧会見て歩き


西川雅典さん
 西川さんは「いわゆるオブジェではなく用途のあるものを作っています」という。それが工芸の基本だし、魅力でもあると思うからである。また「器という形をとることで、見る人と会話ができたら」と期待もしている。しかし、写真を見てもらえばわかるように、西川さんの作るものは、いわゆる「器」ではない。「お椀は、特別なかたちのような気がします。やるなら本気で取り組まないとできない。作りました、出しました、では済まないですよ」

 伝統的な形に対する畏敬の念があるのである。さらに、「性格的な問題だろうけど、卵の殻とか、貝とかを細かく張ったり、箱の寸法をきちっと合わせたりとか、もちろんそういう技術もできなくちゃいけないとは思いますが、それより自分のイメージをどんどん形にしていくほうが楽しい」その結果、形も塗り肌もかなり自由な、「漆っぽくない」作品になるのである。


水辺

水鳥の注器II

雪虫
 「イメージの原点は具体的なものから作ることが多いんです。ただ、山を見て山を描くのもすばらしいけれど、目の前の風景そのままじゃなくて、気持ちとか記憶の底から湧き出るものを形にしたいと思って、今回、いろいろ考えました」
 たとえば「水鳥の注器」の連作は鳥のイメージである。「乾漆小筥」の白いほうは、広い雪原に風が作るさまざまな曲面のイメージ、という具合だ。
 ご本人は「中途半端といわれればそうなのですが」と苦笑するが、用途と非用途、器とオブジェ、従来の漆表現と新しい漆表現、そういう対立の微妙なあわいで仕事をしていこうとしているようだ。「水辺」と題された比較的大きな二つの作品はオブジェとしても見事だし、花を入れてもいい・・。

 しかし、そもそも工芸という言葉がよくわからない。ちなみに辞書を引くと「美術的な工業生産品をつくるわざ」とある。工業生産品とは大量生産品と同義であろう。大量生産される美術品などというのは形容矛盾に近いのではないか。アンディ・ウォーホールのように、大量生産そのものを逆手にとって美術たらしめるという方法はあるにしても。
 すでに工芸そのものが矛盾をはらむ概念だとしたら、それに忠実たらんとすれば、自分もまた矛盾を抱え込まざるをえない。おそらく西川さんは、その矛盾をわが身に引き受けて生きようとしているのである。
 そんなことを考えながら作品をもう一度見直すと、形と表面のテクスチャー(質感)もまた矛盾するのではないかと思えてきたのである。非常にシャープな曲面や輪郭をもつ作品の表面に、和紙で作った凹凸がつけてあるのだ。もしこれを漆の得意とするつるつるの鏡面仕上げにしたら、どうだったろう。多分、シャープさが相殺されてしまったのではないか。対立しあうものを共に取り入れることで、互いの特徴を引き立て合っているのだ。

 形というものを考えるとき、いつも思い出す詩がある。短い詩なので引用してみる。
 「花であることでしか/拮抗できない外部というものが/なければならぬ/花へおしかぶさる重みを/花のかたちのまま/おしかえす/そのとき花であることは/もはや ひとつの宣言である/ひとつの花でしか/ありえぬ日々をこえて/花でしかついにありえぬために/花の周辺は適確にめざめ/花の輪郭は/鋼鉄のようでなければならぬ」(石原吉郎「花であること」)

 風に揺れ、とらえどころのない花の形が、この詩を読むと、絶対必然、それこそ鋼鉄のように強固なものに思えてくるのである。自然のものの形がそうであるなら、その強固さ(花の意志といってもいい)をこそ写しとらなければならないのではないか。西川さんの目線はそのへんにあるような気がするのである。


水面−みなも

水面−みなも

水辺



水鳥の注器I

水鳥の注器II

水鳥の注器II
 もうひとつ、たとえば「水鳥の注器」には、I、IIのふたつのシリーズがあり、それぞれにバリエーションがある。IIのほうを撮影したので、それを見ていただきたいが、印象は似ている、いや同じといってもいい。しかし、形は微妙に異なる。なぜ、ひとつではなく連作するのか聞いてみた。
 「以前、シリコンで型をとって、まったく同じものをいくつか作ったことがあるんです。場合によってはそういう作業が必要なときもあるんです。でも、同じ人間であってもみんな違うように、1個しかないようなものを大事にしたい。石膏を削り出して型をつくるんですが、石膏に触っているときの、その1回だけの感じを大事にしたいんです」
 1個しかない、1回を大切にする、というなら「水鳥の注器」は1個だけ作ればいいのである。ところが微妙に異なるものを作るのである。したがって、この発言のポイントは「同じ人間であってもみんな違う」という部分にあると思う。1個しか作らなかったら、「同じようだけど違う」ことが伝わらないからだ。もっというと、西川さんは「違う」ということを強調したいのではない。「同じではない」ということを、そっといいたいのである。

 西川さんは日本漆工協会の仕事もしていて、ジャパンうるしネットも何度かお世話になったことがある。その協会の講習会などで一般の方の指導をしていると、いろいろ感じることがあるそうだ。
 「すごく勉強になるんです。ぼくなんか偉そうに人に教える立場にはないのですが、みなさんの作品にかける情熱とか、漆に対する思いとか、かなわないと思う人がいっぱいいるんです」  西川さんの初心もまた健在であることが確認できる言葉だと思う。

「西川雅典漆芸展・・・景のかたち・・」は2003年12月8日(月)〜12月13日(土)まで、東京都中央区銀座1−9−8 奥野ビル4FのEcrup+HMエクリュ+エイチエム(TEL.03−3561−8121)で開かれている。時間は12時半〜19時(最終日は17時まで)。


水鳥の注器II

乾漆小筥

乾漆小筥

文と写真: 岡崎 保 


西川雅典さんの(にしかわ・まさのり)さんのプロフィール
1968年北海道帯広市生まれ
1991年北海道教育大学札幌分校 塗装工芸研究室卒業
青森県工業試験場漆工部研修生となる
日本漆工奨学賞受賞
1992年札幌芸術の森クラフト全国公募展入選
日本クラフト展入選
工芸都市高岡クラフト展「グランプリ」受賞
朝日現代クラフト展「奨励賞」受賞
1995年朝日現代クラフト展「優秀賞」受賞
1997年東京芸術大学大学院美術研究科修了
1998年中日漆芸交流展(台湾)


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