「スペースたかもり」の高森寛子さんから案内状が届いた。「スペースたかもり」の展示会ではなく、会場はギャラリー新宿高野となっている。添えられた手紙を読んで、なるほどと合点がいった。この「木曽漆展」は、最初、スペースたかもりで開く予定で企画された。ところが、出品点数の多さや大きい作品もあるため、より広い会場が必要となり、高森さんがプロデュースする形で、ギャラリー高野で開かれたのであった。展覧会2日目に、軽食パーティーもあるという。通常、「見て歩き」の取材は初日と決めているが、今回はパーティーにつられて2日目に出かけることにした。

挨拶する高森寛子さん |

石本則男さん |
会場に入ってまず驚いたのは人の多さだ。こんなに広いスペースなのに、熱気がむんむんしている。次に、作品の多さにもあっけにとられる。主催する「木とうるしの会」は会員14人。全員が木曽楢川村で漆器制作している。従って、会場を14のブロックに分け、それぞれの作品を展示してある。大小はあるにしても、1人が30〜50点を出品すれば、それだけで相当な数になる計算である。取材する側としては、途方に暮れる。そこで作戦を立てた。作品の写真は1人1点とする。14人全員にインタビューしたいところだが、それは不可能なので、会長の石本さんに代表してもらう。ということで、作品をざっと見ていくことにした。
器がある。家具がある。花生けがある。流木がある。アクセサリーがある。オブジェがある。実にさまざまである。1人の個展ではないから当然だが、それでも14人の工夫の数々は、にぎやかなまでに感動的で、木曽が丸ごと移転してきたようだ。「木とうるしの会」という名前のとおり、木が大事にされ、生かされ、強調されているという印象を受けた。さらに、値段の安さにもびっくりした。これなら、若い人にも十分買える。
呆然としていると、やがて、高森さんが短く挨拶し、石本さんが、会員一人ひとりを紹介して、パーティーが始まった。流木とおぼしき作品にカナッペが盛られ、春慶塗の重箱にはぎっしり各種料理が詰まっている。グラスにも漆がほどこしてあるようだ。つまり、これらは見事な使用例なのである。

石本則男「飯器 2人用」 |

伊藤淳欣「空間のハーモニー(瓢箪花器)」 |

岩原篤「流木の花生」 |

荻村正公「酒卓・布目A、ヘギ目皿、多用皿」 |

太田忠「花台」 |

小坂康人「小判膳、あじな徳利、あじな盃」 |

巣山道隆「隅切膳朱塗」 |

巣山友治「桐う作りカップボード」 |

14人のパネルE |
会長の石本さんを宴の輪の外に引っ張り出してインタビューを試みた。
…「木とうるしの会」とは、そもそもどういう会なのですか。
石本 1981年にできた会ですから、もう20年以上になるんです。もともと地場産業の中でもの作りをしていた人たちが、何か研究しようということで、若手集団としてできた会です。当時はバブルですから、産地の中での賃仕事が、もう追いつかないぐらいありまして、自分のものを作る余裕なんかなかった。稼ぐことに一生懸命で。そういう中で、問屋さんから来る仕事だけじゃなくて、自分たちのものを作りたいという人たちが集まってできた会です。
…みなさん、職人と作家を使い分けてるということですね。
石本 当初は、特にそうでしたね。というのは、いろいろ時代の変遷があって、いまは全国の伝統工芸の産地はみな状況が悪いんです。かなりの職人さんがやめています。木曽も例外ではなく、厳しい状況にあります。賃仕事も減ってしまって、自分たちで生きていかなきゃいけなくなった。前は賃仕事が主で、創作は趣味だったのが、いまは逆転しています。ご承知のように、漆の世界は、技術が難しかったり、生産性を上げるためもあって、分業性になっています。木地屋さん、下地屋さん、塗り屋さん、加飾関係、全部分かれています。14人の会員の職種も全員違います。でもいまは、分業のほうの仕事が減ったので、自分の分野だけをやっていたのでは、なかなか生活できなくなった。それと、自分でも違うことをやりたいということもあって、動きが出てきています。完全に個展でやっていこうとしている人もいれば、文化財の修復を主に手掛ける人もいたり、もちろん職人でやっていこうという人もいます。確かに賃仕事は減っているのですが、それ以上に職人さんが減っているので、忙しいんですね、逆に。
…会の規約はあるのですか。
石本 特にないです。ただ、もともと若手ということで始まったこともあって、入会は50歳までです。定年はありません。後継者がいないので、下が入ってこない。どんどん平均年齢が上がっています。
…普段の交流は?
石本 月に1回は集まります。
…飲み会ですか。
石本 それがですね、飲み会じゃないんです。以前は確かに仲良しグループ的な面もあったのですが、ある時期から、もうそういう団体じゃなくしようと。作り手というのは、最終的には1人なんです。会員同士でもライバルであるわけですが、みんなじゃなきゃできないこともあるんじゃないかと。行政とかに頼らずに、自分たちの力で動ける方法を考えようということで、かなりまじめにやっています。
…普段はどんな活動をしてるんですか。
石本 関東圏で展示会をするのは、今回が初めてですが、長野県内では毎年やっています。それから自分たちの器を使った食事会なども開いています。最初は、作り手を育てようということで動いていたのですが、最近は使い手を育てようという方向に動き出しています。今回もその一環です。使い手を育てようなんて大きなことをいってますが、ほとんどお客さんに教わってばかりです。あとは産地の活性化を含めて新商品の開発ですね。こういうパネルもそうですが、一人では絶対できないものです。これはみんなに板を渡して、それぞれ得意な分野で作ってもらって、それを組み合わせたものです。一人でこういうものを作るのは、仮にできたとしても、相当値段が高いものになりますね。
…今日でまだ2日目ですが、手応えはいかがですか。
石本 びっくりしました。こんなに来ていただけるとは。それから、ギャラリーの方、漆関係の方、そういうプロの方がたくさんお見えになっている。そして、こんなにボリュームのある木曽の展示会を、都会では見たことがないとおっしゃってくださるんです。まあ、木曽に行ってもこれだけのものはないと思います。
…値段が安いので、驚きました。ゼロがひとつ少ない感じです。
石本 その説明はちょっとむずかしいんですが、こういう値段でできることも事実は事実なんです。とにかく、大勢の人に漆になじんでもらいたい、買って使ってもらいたいということです。この間、山梨の女の子とニュージーランドの女の子と3人で話していたら、山梨の女の子が、「漆って何なんですか?」っていうんです。その子は漆器のことは一応知ってるんですよ。でも、漆って何なのか知らないんです。それで、ニュージーランドの女の子が「漆は、漆という木の樹液で・・・」なんて教えているんです。いまは、そういう時代なんです。その山梨の女の子が、漆はピカピカしていて、高くて、触れないというんです。そのとき、私はちょうど今日の準備をしていて、器を並べていたんですが、山梨の子が「こういう器なら、私にも使えそう」といってくれたんです。値段は会員がそれぞれ考えて付けたもので、話し合ってはいません。でも、若い人にも使ってもらいたいという気持ちは、みんなあると思います。
…会としては、どういうところを目指しているのですか。
石本 個人はどういう動きをしてもいいんです。自由なんです。会としては、一人で生きていくのは大変な時代になってきている、だから、情報を含めて、お手伝いをしていこうということです。
…会員の中から有名になる人を出そうとかは?
石本 正直なところは、そういうことです。個展に専念している人が、2人出ています。
…こういう催しは来年以降もやる予定ですか。
石本 基本的にはやりたいと思っています。ただ、経費もかかることですから、それをどうクリアしていくか、ということでしょうね。県内ではもう何年もやっていますから、できるだけ、外へ出たいですね。目標としては、外国でやりたいと思っています。
…ご発展をお祈りします。

手塚英明「乱根来塗・乱曙塗畢生鉢」 |

手塚衛「黒華塗 7.5寸角四段組重」 |

廣田純一「丸重 若松蒔絵」 |

手塚雄三「一器彩々大皿根来(左)
・一器彩々大皿黒内朱(右)」 |

長谷川広咏「三角花器・飾り棚」
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小坂進「一閑張丸盆・一閑張根来茶器・
幾何学螺鈿香合」 |
「木曽漆展」は2004年1月29日(木)〜2月3(火)まで、ギャラリー新宿高野(新宿三越隣
TEL 03−3352−8893)で開かれている。時間は11時〜19時(最終日は16時まで)。1月30日午後2時から、展示された器に料理を盛り、「使い手と作り手の集い」が開かれた。
文と写真: 岡崎 保
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