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展覧会見て歩き

  今年も明治神宮で「漆の美展」を見てきた。例年より1カ月遅い開催のためか、季節も春めいて、入場者も多くなるのではないかと関係者は期待している。 「漆の美展」の特徴は、何といっても規模が大きいことだろう。規模が大きいということは開かれていることを意味する。ここには垣根がない。プロもアマも平等に展示されている。台湾やスペインからの出品もあり、国の垣根もない。伝統と現代という、往々にして反発し合う垣根もない。新しい技術もあれば、伝統の極みを追求した作品もある。つまり「漆の美展」では日本の漆の現在を一望にすることができるのである。

丸山専務理事

 今回も案内していただいたのは主催する日本漆行協会専務理事の丸山高志さんだが、丸山さんはこう言う。

「この展覧会は現代の美術工芸、伝統の美術工芸、産業的な要素、さらに趣味や遊びの要素、そういうものが一体になっています。趣味や遊びというと、美術とは別の世界と思われるかもしれませんが、もともと自分の世界、人形であったり皮であったり木工であったりするわけですが、そういう世界でそれなりの作品を作っている人が、自分の作品作りに漆を取り入れ、自分の世界を広げようとしているわけです。伝統工芸などというと何となく閉鎖的な世界という印象がありますが、私たちはもっと幅広く交流して、お互いのいいところを吸収しあわなければいけません」

 台湾ではかつて交流展を開いたことがあり、また是非やりたいという申し出があるのだそうだ。同じくスペインからも、「漆の美展」に現地の作品を加えて展覧会を開けないかという熱心な要望が来ているという。実現するかどうかはまだわからないが、相手の熱意に、丸山さんは驚くと同時に感謝している。

 ごく一部の作品だけだが、丸山さん、それから同協会の西川雅典さんの説明やコメントをまじえて紹介しよう。


ほたるの旅たち2002

漆パネル VOYAGE

漆額 かくれんぼ



祈り I 世界平和祈念

漆画 運河

遺跡にて(大仏)

漆額華ひらく

春蘭

漆皮盤 幻月

朱研ぎ出し貝

あすなろ蒔絵茶箱

冬情

金胎象嵌二枚屏風 般若心経

屏風鶏研出蒔絵宝石箱

乾漆平文蒔絵漆箱 慕
・古関六平「ほたるの旅たち2002」
 会場の入口正面、ガラスケースに入れて展示されている。乾漆だが表面がガラスのように輝いている。ファンタスティックな作品だ。「この方はもう80歳を越えていますが、いつも若々しい作品を作ります。去年、見に来たイタリア人に、ガラスか、と聞かれて、ケースはガラスだが、中身は漆だ、と冗談をいったんですけどね」(丸山)

・角田純一「漆パネル VOYAGE」
 幻想的で夢のある作品。いちばん下に青貝、さらに点描の漆、それを組み合わせてバックにしている。「いま貝を使っていればみんな螺鈿といってますが、螺鈿は1mmぐらいの厚いもので、青貝は0.1mmぐらいの薄いものだから、本来螺鈿ではないんです」(丸山)

・土井哲二郎「漆額 かくれんぼ」
 輪郭は卵殻という技法で、卵の殻を一つ一つ置いている。花が咲いている野原をヒヨコが走り回るかわいらしい作品。

・花坂國男「祈り I 世界平和祈念」
 イランのモスクに感動した作者がイスラムの地の平和を祈って作った作品。ドームの部分は乾漆、台は木でできている。イスラム文様は「これだけの色の構成をするのは大変」(丸山)。台の中には電気がともる。熱で木が狂わないように、内壁にはアルミの箔に漆を塗ったものが貼ってある。

・頼高山「漆画 運河」
 台湾からの出品で「日本の漆の作品とは違って、おおらかな感じ」(西川)だ。作者のコメントでは「高盛画にて熱帯地方の感じを表現」したのだそうだ。

・山元健司「遺跡にて」
 卵殻をうまく使った印象的な作品。作者は伝統的な蒔絵とこの作品のような現代的なものと、両方を作っている人だそうだ。「薄暗い廃墟の扉の奥から見えた壁面仏画を画面に構成しました」(作者)。

・山岸寿治「漆額 華ひらく」
 農林水産大臣賞受賞。「これは孔雀です。生き物をモチーフにした作品が多い方です」(西川)。

・伊藤裕司「春蘭」
 作者によれば「淡い陽光は色漆で、花は白・黒の蝶貝の螺鈿、その他平文、蒔絵等で制作しました」とのこと。「色合いのぼかしがむずかしいんです」(西川)

・坂下直大「漆皮盤 幻月」
 皮を器胎とするのが漆皮(しっぴ)。作者は長年漆皮に取り組んでいる人。「見付けは、塗りたてのぼかしで微かな月を現し、横手に塗った竹の網目で枝の梢を、また、その梢から透ける星を金貝で表現した」(作者)。「やっていることは伝統的なんですけど、感性が生きている」(西川)。文部科学大臣奨励賞受賞。

・般若剛「朱研ぎ出し貝」
 尺5寸の浅皿。表面を高岡彫の手法で仕上げ、全体を貝の形に見立てている。朱を塗り、下の黒を研ぎ出している。「産地としての伝統的な仕事以外にも、こういう現代的な作品も作っている方です」(西川)

・田崎昭一郎「あすなろ蒔絵茶箱」
 日本漆工協会会長賞受賞。「(あすなろ)の葉を図案化し、白漆の研ぎ出しで、やさしく品格のある作品に仕上げるよう努力しました」(作者)。「金でパターンを描いているだけでなく、その中に細かい模様が入っています。これどういうやり方をしているのか、ぼくにはわかりません」(西川)。

・彭坤炎「冬情」
 色箔(銀をベースにして着色したメタリックな箔)という新しい素材をうまく使いこなしている作品。「へんな先入観がないためだと思いますが、新しい素材については台湾の人は積極的ですね」(西川)。

・入山白翁「金胎象嵌二枚屏風 般若心経」
 漆という固定した枠にとらわれない、前衛的な仕事をした白翁。ご子息の和夫さんが、所蔵している作品4点を出品しているが、その中の一枚。

・白井松丘「屏風鶏研出蒔絵宝石箱」
 作者は木地から自分で制作する。印籠なども手掛け、非常に精緻な作風で知られる。これは全体が屏風に描かれた鶏の形をしている。

・須藤靖典「乾漆平文蒔絵漆箱 慕」
 日本漆工協会会長賞受賞。作者は「自分の慕いを金、銀、平文、螺鈿などを用いて表現」したという。すずの板を模様に切ったものを張り、その周囲に金粉、銀粉を蒔く。漆を塗って金属の肌を研ぎ出す。これは円ではなく、さり気なく角をつけた多角形。

・相馬栄子「夜半の夏」
 素材は瓢箪。くり抜いた部分は銘々皿になっている。模様は葉をそのまま張り付けたもの。「これね、くり抜くのは大変なんですよ。技術のいい人は逃げないでとことんやるから、こういうものができるんですね。私には、こういう根性はない。逃げることばかり考えてます(笑)」(丸山)

・丸山高志「霊峰讃歌 紅への祈り」
 これは自作解説で。「富士山4連作の最後の作品です。次は蓬莱山を描きます。私はいま68歳ですから、あと2年間で蓬莱山4連作を作って、古希を迎えようというわけです。家族はどうせ古希のお祝いなんかしてくれないでしょうから、自分で古希のお祝いをしなければならないんです(笑)」

・西川雅典「黄砂の箱」
 これも自作解説で。「刻々と変化する自然の姿を形に・・空間の存在と時間の流れ、その中に浮かぶ器を・・」

夜半の夏(瓢箪)

霊峰讃歌 紅への祈り

黄砂の箱

 なお、いつものように明治天皇、昭憲皇太后のゆかりの品も展示されている。また、3月10日には、総裁桂宮殿下をお迎えして、興隆親睦会が開かれた。


三井会長
親睦会で挨拶する三井之乘日本漆工協会会長


「漆の美展」は3月6日(土)から4月4日(日)まで、明治神宮文化館宝物展示室 (東京都渋谷区代々木神園町1-1 ?03-3379-5875)で開かれている。時間は9時30〜16時30分(入場は16時まで)。入場料500円。

文と写真: 岡崎 保 


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