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展覧会見て歩き

布目机/真塗ヘンコ片口/真塗楕円向付/朱塗四方盃/一閑小判膳/鈴木睦美さん

螺鈿梅蒔絵蓋物
朱塗蓋物 硯石と水滴
櫓ちらし大鉢
鈴木作品で第一番に思い浮かぶのは、その曲線、曲面の美しさである。それは、木と漆と鈴木さん、この3つが揃わないかぎり金輪際できない類のものである。次に思うのは、和でありながら、日本の伝統を軽々と超え、世界に開かれた「和」であるということである。アメリカだろうがインドだろうがアフリカだろうが、どこの国のどの民族の食卓に置いても、鈴木さんの器は違和感がない。第三は、真塗を中心とした無地のあたたかさ、底深さである。それは重厚な交響曲に似ている・・・。

頭の中で以上のような整理を行った上で、今回の展覧会にでかけたのだが、「あれっ」と思った。色があるのだ。華やかなのである。挨拶もそこそこに、まずそのことを鈴木さんに聞いてみた。謎はすぐとけた。蒔絵やガラス、日本画などが一緒に展示されているのである。蒔絵や日本画は奥様の美意さん、ガラスはご子息の玄太氏の作品である。つまり、今回の個展は、もちろん鈴木さんの作品が大半を占めるが、家族展の趣も楽しめるのである。それにしても見事な一家だ。「螺鈿梅蒔絵蓋物」は奥様との合作、「朱塗蓋物」は玄太さんとの合作。玄太さんがガラスで硯石と水滴を作り、鈴木さんの蓋物を硯箱に変えてしまったのである。

しかし、色やガラスが加わったこと以外でも、今回の鈴木さんはどこか華やかだ。 別の言葉でいうと、スコーンと抜けている。 「抜けてるでしょう。自分でもそう思うよ」 たとえば、「櫓ちらし大鉢」はどうだろう。写真では、この器の大きさがよく伝わらないと思うが、鈴木さんの器の巨大さには、何回見ても驚かされる。そして、この蒔絵だ。当のご本人は「野外でも使えるし、お寿司をのせてもいいし、おむすびをのせてもいい」などと解説してくれるのである。なぜ寿司をのせたり、おむすびをのせるのに、こんなに巨大な鉢が必要なのか。鈴木さんの説明はたった一言、「おいしそうに見えるから」。

柳蒔絵長食籠
溜塗雲錦楕円大鉢
間道蒔絵平皿
溜塗稲穂蒔絵向付揃
朱塗大平皿 朱塗椿盃
朱塗かぶと型花入
露盆/朱塗四方皿/ねじり梅盆/
真塗小鉢
船板盆/内銀片口/内銀手のり盃(大)/朱塗内銀手のり盃/真塗内銀盃(大)/朱塗内銀盃 
もう一つ例をあげよう。「柳蒔絵長食籠」を見たとき、これはオブジェかと思った。こんな細長い食籠があるだろうか。筒型(といっても1段ずつ形が異なる)で5段に積むのは、技術的にはかなり難しいはずである。鈴木さんほどの作り手ともなれば、それは難なくクリアするにしても、なぜ、こういう形を発想するのだろう。 「松屋で展覧会ができるというんで、では、がんばって、ということでできたんです。面白いでしょう。椀にもなるから、鯛茶漬けでもいいし、お寿司を入れてもいいし、饅頭でもいい」

今回の展覧会の案内状に、鈴木さんはこう書いている。
「厚みや重さ手触りを含め、器には丁度良い寸法があり、それを押し進めていくと料理や酒に良く合います」
これが鈴木さんのいう「適寸の器」である。取材中、鈴木さんは何回も「持ってみて」といって器を持たせてくれたのだが、普通の器よりはるかに軽い。ただ軽いだけではなく、重さの配分が絶妙である。普通の器は重さの7割が底面、側面は3割である。鈴木さんの器は逆なのだ。つまり料理を盛ったときに最も安定した重さの配分になるのである。

しかし、である。赤ん坊なら風呂桶としても使えそうな巨大な鉢、細長い食籠、こういうのは適寸といえるのだろうか。
「自由になったということです。京都の高島屋で3年ごとに個展をやってますが、去年、10回目を数えました。30年以上作ってきて、いま、すごく肩の荷を下ろした感じで仕事をしています。何が作りたいとかは関係なく、これまで作った中から、これはよかった、料理がほんとうにおいしく見えた、そういう器をうまいこと作っていけばいい」
こういうことではないか。「この大きな鉢に何百個も寿司をのせ、野原でみんなで食べたらうまかろう」という想像を抑制するのを、鈴木さんは廃めたのである。「こんな大きな鉢を作ってどうするの」という常識に対して、「うまかろう」という想像を優先させることにしたのである。その「想像」に寸法を合わせるのも「適寸」なのではないか。もちろん、事は大きさだけにとどまらない。「抜けた」のである。

こうした「抜けた」境地は、鈴木さんの言葉のはしばしにうかがうことができたように思う。
「いいものはね、時代がわかるんです。場所もわかるんです。いつの時代のものやろうなと思うものに、いいものはありません。100年きざみ、いや50年きざみでわかります。ぼくはそういう漆をしたかったんです。時代が出る漆をね。だけど、時代のことを考えて作ったら、古くなります。新しいものを作ろうと思ったら、翌年、古くなります。新しいもの作らんでも、この2004年に生きているということが新しいんやから、気を入れればいいんです。集中すればいい」

「溜塗雲錦楕円大鉢」にはため息が出てしまう。これも一抱えもある大きさだが、重さは1kgしかない。ところが、元になった木は100kgだというから驚く。
「この線を出すために99%をホカしてしまう、ほんまにぜいたくな仕事なんです。それを考えたら、木以上に生き残る仕事をせんといかんと思います。ぼくは木は丸太で買います。製材された盤で買うと、お金に変えんならんと思うけど、丸太で買うと、いい仕事したいと思うんです。腕を出したら、作品は冷たくなります。頭を出したら、その器は品がなくなる。そういうことを全部超えて、使うてみ、これで食べたらおいしいよ、そんな気持ちで作ってます」

実は、この作品の前で、記者は教養のなさを露呈したのだが、参考までに紹介しておこう。問題は銘の「雲錦」という言葉である。「この、くもにしきというのは?」と聞くと、鈴木さんは笑って、「これは、うんきん、と読むの」といって以下のような説明をしてくれたのである。

「雲錦とは桜と紅葉のことなんです。ということは春と秋、つまり一年中使えるということ。器に雲錦と書いてあれば、この器は一年中使えますよという意味です」

いや、恥ずかしい。なるほど桜と紅葉の蒔絵が施してあり、春なら桜が見えるように、秋なら紅葉が見えるように器の向きを変えればいいわけである。

「鈴木睦美漆器展」は2004年5月12日(水)〜5月18日(火)まで、中央区銀座3-6-1 松屋銀座(03-3567-1211)7階画廊で開かれている。時間は朝は10時から、夜は金曜日は21時、水・木・土・日は20時、月・火は19時30分まで。ただし最終日は16時閉場。


●お知らせ
 鈴木睦美さんの作品とエッセイをまとめた本「睦美十選」が発売されました。詳細はここをクリック

文と写真: 岡崎 保 

鈴木睦美(すずき・むつみ)さんのプロフィールさんのプロフィール
1942年 京塗師二代目鈴木表朔の子として生まれる
1975年 京都で初個展。以来、各地で開催
1976年 ストックホルム東洋博物館で海外初個展。以来、15カ所の博物館で展示
2000年 「うつわを見る」に出品。東京近代美術館
2001年 「京の工芸」に出品


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