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展覧会見て歩き


箱瀬さんは蛮勇の持ち主である。いくらテーマが「重ね」だからといって、何も三十段も重ねなくてもよさそうなものである。そう思いつつ、つい見入ってしまう。「フーン!」とうなってしまう。そうして、体の中に力がわいてくる。元気が出てくる。
 高さ1メートルになんなんとする「小塔の器(丸)」は、器というより、もはや小建築
、ミニ「パゴダ」である。一枚一枚はずせば、皿になり、盛器になり、胴のいちばん太いところは桶になる。技術的にも、肉体労働的にも、容易ならざる仕事だ。発想の非凡に脱帽し、最後まで完成させた情熱に敢闘賞を贈りたい。
全体の形は塔あるいは宝珠(仏塔のてっぺんについてる球形で頭がとがっている宝玉)をイメージしているという。しかし・・。


小塔の器(丸)
小塔の器(四方角)
面取小鉢・かすみ膳(大・小) 耳盛器 本朱
「ぼくはオブジェを作るつもりはまったくありません。使えるものを作りたいんです。段によって朱の色を変えたのは、一色だと全体の形ばかりが見えちゃって、一つ一つが想像できなくなるからです」

一方、「小塔の器(四方角)」のほうは、中は黒で塗り、表面は拭き漆にした。全部黒にしようかとも考えたが、それでは黒々としすぎて、固くなってしまうし、せっかくむくのヒバを使ったので、その質感を出したかったのだそうだ。大家族が住む藁葺き屋根の民家の一角に置きたいような、そんな仕上がりである。

どちらも人目を引く作品であることは間違いない。たいがいの人はくぎづけになるはずである。では、奇をてらった作品かといえば、断じてノーである。まず厭味がない。作者が作品を冷静に消化しきっている。だから見る側は安心して仰天できるのである。


「小塔の器」はあくまでも器が集まったものであり、一個のオブジェを解体して器にも使えるようにしたものではない。それは箱瀬さんが強調する通りである。しかし、鑑賞にも耐えるのだから、使わないときは大いに鑑賞して楽しめばいいのである。箱瀬さんが使われないことを恐れている、そのことを理解していれば、それでいい。

重箱について、箱瀬さんはこういう。
「しまわずに置いておける重箱を目指しています。漆にとってもしまわれないほうがいいんです。空気に触れたり、触られたりすることで生き返る。立派そうだからといってしまわれるのが、いちばん困る」
こういう言葉を聞くと、箱瀬さんは実用一点ばりの人かと思ってしまうが、そうではない。今回のテーマ「重ね」については、こういう。

「主婦の方などは、収納に便利という意味で重ねるということを考える。結果的に収納に便利だったというのならいいんですが、収納にばかりとらわれすぎると、窮屈になります。ぼくは収納という面から重ねるということを考えたことはあまりありません」
なるほど、箱瀬さんの重箱の蓋には把手が付いているのだ。収納を考えるなら、把手はないか、もう少し小さいほうがいいだろう。しかし「無駄」を大切にしているのである。

箱瀬さんは必ずしも縦の重ねだけではなく、横の重ねもあってもいいのではないかともいう。三次元をフルに使って、縦横無尽に重ねるのである。畳の上にお膳をバーっと並べる、たとえば「耳盛器 本朱」のように斜めにずらして重ねる、今回の展示では、椀も塔のように積み重ねてある、などなど「重ね」は単品の世界とは違って、いくらでも展開が可能だというのだ。


隅切重 うるみ

小塔の器 水紋

応量器 本朱・小判皿(黒)鉛
出品されているのはほとんど無地の器だが、箱瀬さんは本来蒔絵師である。輪島の高校を卒業し、模索の期間が2、3年あり、21歳で弟子入りする。
「ガラスでも染色でも、手で作る仕事なら何でもよかったんです。たまたま地元が漆の産地ということで、蒔絵の道に進んだわけです」

27歳で職人として独立したが、「輪島の蒔絵にちょっとクエスチョン」を感じ始める。何より注文されて作るよりも、自分の気に入るものを作りたかったという。30歳ぐらいから創作活動を始めると、無地のものが多くなっていく。本格的に個展を始めたのは30代後半になってからである。

「大きなものに蒔絵をするのは、好きじゃないんです。ただ、小さなものなら、きらっと光るような蒔絵ならいいかと思って、今回も少し出しています。でもねえ、最近はもう無地ばかりでしょう。そうなると、天の邪鬼ですから、また蒔絵をやろうかと思ってます」

 箱瀬さんは、個展ごとにテーマを決め、個展に向けて制作していくタイプの作家だ。しかし、一貫して追求しているテーマを敢えてあげると何ですか、と質問してみた。「普遍性、かな」という答が返ってきた。
2年前、箱瀬さんはスイスで個展を開いている。また、今年8月、モナコで作品を展示する。フランスの高級ジュエリー会社の絵付けのデザインを手がけたのがきっかけで、そういう運びになった。さらに、来年1月には、パリでも個展を開く。

これは箱瀬さんが地域的な「普遍性」を求める一つの現れだろう。そして、普遍性を言うなら、時代的、つまり時間的な普遍性も意識されなければならない。
「こんなもの(小塔の器)を作っていてもですね、その時だけの、変わってるものを作ろうという意識はないんですよ。これはぼくの勢い、気持ちを出したいと思って作ったので、これが普遍性を持っているか持っていないかじゃなくてね」

その時耳目を集めるものを作ろうという意識はない・・・という形で箱瀬さんは時間的な普遍性を意識しているのである。

「重ねる」という視点から器を見ることを教えてくれた箱瀬さんに感謝したい。そして「小塔の器」は生きる勇気と希望を与えてくれるから、ぜひ見にいきなさいと多くの人にすすめたい。一般の家庭で「小塔の器」を使いこなすのは、現実的には難しいかもしれない。しかし、想像することはできる。宴の夜、座敷の隅に置かれた「小塔の器」が一枚一枚外されるときに、招かれた客たちの間から立ちのぼる歓声。


丸香合 ぶどう文

小箱鉛内梨子地青貝

「箱瀬淳一漆展 重ねの器」は2004年5月13日(木)〜5月29日(土)(日曜休廊)まで、港区南青山2-6-12 アヌシー青山1F 酉福 真ギャラリー(03-5411-8895)で開かれている。時間は11時から18時30分まで(最終日は16時閉廊)。20日、21日、22日は箱瀬さんが会場に詰める。

文と写真: 岡崎 保 


箱瀬淳一(はこせ・じゅんいち)さんのプロフィール
1955年輪島市生まれ
1975年 蒔絵師田中勝氏に師事
1989年日展入選。ほか入選、受賞多数
1999年酉福にて個展
2002年スイスのヴェヴェイ市「ギャラリーザッペーニ」
チューリッヒギャラリー「ノイエンジュバンデール」にて個展


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