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展覧会見て歩き


  鎌倉彫をベースに、現代美術を伝統工芸の技で表現する、それが東さんの世界である。
今回は器中心の展示で、オブジェなど美術作品は見られなかったが(忙しくて手がまわらなかったのだそうだ)、存分に自己表現するという意味では、オブジェも器も、東さんの中では区別はないのではないか。東さんの個展はいつだって「東さんを楽しむ」のである。
 

東さんとMushikui-ju

中也詩椀

合鹿椀

椿紋大椀

錫を多用して金属的な表情を出すこと、古い中国文字などを装飾的に使うこと、落書きすること、偏愛する中原中也の詩文を書くこと・・・、どれをとっても伝統的な器の世界からは大きく逸脱している。とにかく独創的だから、一度でも東さんの作品に接したことがある人なら、遠くから一見しただけで「あ、東さんの作品だ」とわかる。類似品はどこにもない。

 東さんの、ものを作る人としての出自は鎌倉彫である。いや、もっといえば「血」かもしれない。

「父が美術好きで、小学生の時点で石川県の美術展(絵画部門)で既に賞をとっていたり、日曜大工など、ものを作るのが大好きだったんです。姉は木彫とか油絵をやっていたし、おじいちゃんは和菓子の職人でした。ものを作ることを仕事にできたらいいなと思っていましたね」

 こうして鎌倉彫の世界に入り、3年間で賞をほとんど総なめにしてしまうのである。「先が見えたような感じで」東青年はもっと広い世界に飛び出すのだが、暫くして『日本漆工の研究』(沢口 悟一 著)で見たきゅう漆を代表する様な 装飾を抑えた柳田村の合鹿椀に惚れ,削り後を少しだけ加えて自分なりの 合鹿椀を作っていた。この椀について、東さん自身は「ストイック」と形容したけれど、なるほど、後年の東さんの作品から逆に振り返ると、新しい世界に飛び出した緊張感というか、満を持す静かなエネルギーを感じさせる椀である。たとえば「椿紋大椀」などと比較してみると、自己解放の差があまりにも歴然としていて微笑ましくなる。ちなみにこの「椿紋大椀」は、ビバリーヒルズの日本料理店に納められているそうだ。


それにしても、東さんはなぜ錫を多用するのだろう。というのは、多くの人の漆に対するイメージは「自然のもの」とか「ぬくもり」「味わい深い」など、およそ金属的なイメージとは正反対のものではないかと思うからだ。

「肌が合ったんじゃないですか。錫の研きというのは見たことないです。自分が最初かなと思っていたら、江戸時代のものにあるんですね」

 付け加えると、記者が「最近はプラスチックのものなどもたくさん出まわってますからねえ」と訳知り風に嘆いたとき、東さんはすかさず

「ぼくはプラスチックの肌も好きです。ただ、漆には漆の道がありますから、それはそれで続けていきたいと思っているんです」

といったのである。漆関係の人と話をするとき、「プラスチック」とか「中国産」などを悪者の代名詞みたいに使って話をすれば、共感が得られやすく、話も盛り上がるのが普通である。そういう業界の常識みたいなものに汚染されている自分を、東さんの言葉で大いに反省させられたのだが、逆にいえば、東さんは業界の常識とか漆の固定概念などに、全然とらわれていないということだろう。ものを作る人にとって、自分が美しいと感じるもの、面白いと思えるもの、それがまず重要なのであって、それ以外のさまざまな配慮などは、できればしたくないのだ、という当たり前のことを再認識させられたのである。
 

はーと落書き錫研き椀

古文字椀

蕪紋カンナ目椀

錫研き刷毛目椀
 以上のことは、東さんの「落書き」好きにも当てはまる。呂色仕上げにしろ塗りっぱなしにしろ、漆器の表面はつるんとしているのが普通である。ところが東さんの器は最初から、いわば傷だらけ、模様だらけなのである。「布目落書き錫研きtable 」は、展示台ではなく、東さんの作品である。脚の部分を変えれば低くもなり、酔ってきたときに便利だし、リバーシブルだから裏返して使うこともできるという優れものだが、錫を蒔いた縁には落書きがいっぱい施されている(余談だが、こういう大きなものを制作しているときのほうが、東さんは気持ちがいいし、解放されるのだそうだ)。

「つるんとしてると面白くないし、傷がついたときに目立ってしょうがない。傷つくのが気になって使ってもらえないのでは、話にならない。だから、わざとガーガー傷つけて、こすれても全然気にならないようにして、気楽に使ってもらえるように考えているんです」

 もちろん、ここには刀痕を残すという鎌倉彫の伝統が生かされていることはいうまでもない。椀の高台のあたりをよくみると、木地師に挽いてもらった原型に東さんがカンナ目を入れていることがわかると思う(写真ではわからないかな)。

 またまた「業界の常識」風にいえば、蒔絵などの加飾は美術面に偏り、実用面では苦しい状況にあるといっていいだろう。しかしそれは、いわゆる様式的な加飾の話であって、「遊びが商売」「装飾がテーマ」といい切る東さんの装飾は、生き生きとしていて奔放。 「もっと独創的なことをしたい」と鎌倉彫の世界を飛び出したことが納得できる。ただ、ここで心配になるのは、器としてどうかということである。つまり料理や食卓との相性ということだ。

 これが楽しそうなのである。単なる容器であることを超えて、東さんの器がある食卓は、料理や他の器とのコラボレーションの場になりそうなのだ。別の言葉でいえば、いつも東さんと会食しているような気分になる。遊びがあり、独創的であり、奔放でもある器が、なぜ食卓におさまるのか、それはよくわからない。しいて推測すれば、東さんの装飾には意味がないからではないかと思う。一見意味ありげな文字や詩文にしても、それは形としてとらえられていて、意味は託されていない。だから煩くないのである。

 東さんは、今年(2004年)の中盤、新しいテーマを見つけたという。

「昔、どこにでもあったような漆器、たとえば蕪の絵がさらっと描いてある椀、江戸の頃なら珍しくないような漆器が、いま見当たらない。そういうものをこれから作っていきたいと思っています」

 蕪だけかと聞いたら、大根もあるのだが、今回は間に合わなかったのだそうだ。



布目落書き錫研きtable

布目落書き錫研きtableの落書き

「東日出夫 漆工芸展」は2004年12月17日(金)〜12月26日(日) でした。

東京都港区六本木5-17-1 AXISビル3F SAVOIR VIVRE(TEL 03-3587-0318)。時間は11時から19時まで(日曜・祝日は18時半まで。最終日は17時まで)。

文と写真: 岡崎 保 


過去の東日出夫さんの記事

展覧会見て歩き vol.48 ひたすらに自己の放出 東日出夫漆展

東日出夫(あずま・ひでお)さんのプロフィール
1950年東京深川に生まれる
1975年鎌倉彫博古堂に入社
1976年鎌倉彫創作展にて受賞
1978年博古堂を退社し、漆塗工房「呂修庵」設立
1997年 慶応義塾大学通信教育課程文学部哲学科卒業
(受賞歴・個展の詳細は「展覧会見て歩き vol.48」参照


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