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ひたすらに自己の放出 東日出夫 漆展


私は漆の個展を見に来たはずであった。

しかしギャラリーに入った瞬間、そんなことなど頭から消え去ってしまった。まず、ギャラリーの真ん中には鈍く光るシルバーのテーブルが2つあり、その上に重箱、椀が置かれている。右側の1つの上には長方形の立方体が白い縄でつながれ、これはなにか ? と思わせる。




錫研き落書きTAKU」: 東さん曰く、漆に一番相性のいい金属は錫。



虫喰い重と椀」: 重箱は漆に砥粉をまぜてマットに仕上げている。

さっそく作家の東(あずま)さんに質問すると、この2つの立方体は、テーブルの「脚」なんだそうだ。ディスプレイ台とオブジェだとばかり思っていたのは、れっきとした出品作品だったのだ。そしてこのテーブルが作られた背景がちゃんと存在していた。

まず、現代の狭い生活空間の中でいかに快適に過ごせるか、と考えてみる。簡単に移動できてしかも置いておくだけで立派なオブジェにその存在を変えてくれるテーブルがあったらどうだろう。

食事に使った後に部屋の隅に片づけてこの写真のように「脚」をテーブルの上に重ねてみる、するとたちまちそこに別な空間ができてしまう。これが普通のテーブルだったらさぞ見苦しい光景であることは容易に想像できる。




古文字椀: 正確には殷虚(いんきょ)文字というのだそう。
木目を見せているものは欅、そうでないものは橡を使用。



また、この高さ(というか低さ)にした理由はこうだ。東さんが友人宅で過ごしていたときに、ふとその友人がちゃぶ台の脚を折ってその上に酒やつまみやらをのせた。そうしたところ実に快適だったそうなのである。

「テーブルと椅子では、人数も限られるし、くつろげないから。この低いテーブルだったら何人でも車座になって囲めるしゆったりできるよね」

と東さんは言う。この一見無機質に見えるシルバーの台は、そんな生活臭い実体験から作られていた。


カナブンの見たもの‥…草」: 漆の上から緑青で仕上げている。この作品詳細はこちら

作品とその背景のギャップのようなものは他の作品からも感じられる。コンクリートの壁に掛かっているまことに詩的なタイトルの「カナブンの見たもの‥…草」もそうだ。作品は「現代アート」そのものに見える(「現代アート」の定義は人それぞれだと思うのでここでは言及しない)。

しかし、このタイトルから考えると上記のテーブルのような実体験が封じ込められていることは間違いない。




かさこそと、そして百済へ寄り添ふ」: 百済の瓦と仏像の足の指紋 欅使用。
この作品詳細はこちら




あまり多くをかたってはだめ」: お子さんの落書きをパソコンに取り込んで加工した。漆は使っていない。

かさこそと、そして百済へ寄り添ふ」や「あまり多くを語ってはだめ」なども。中原中也が好き、文字が好き、百済の瓦や仏像が好き…。

東さんはとにかく好きなものを取りこみ発酵させ、独自の結晶(作品)として放出する。重箱、椀と一緒にレリーフや額があっても違和感が感じられないのは、東さんの中にある「想い」が入っているという共通項があるからだろう。

東さんは、昭和43年高校を卒業した。そのときはちょうど東大の学生闘争があったりして世の中はめちゃくちゃで、大学どころではなく4年間自分の好きなことをして過ごした。(後、お父上との約束を果たすべく20年かけて慶應大学通信課程を卒業する。)




中也詩椀: 東さんは中原中也のグレ具合が好き。
見込みには補強のため、そしてデザインのため麻布が張ってある。



その後、なんでもいいからものを作りたい、と考えていた東さんは、姉上が趣味で木彫をされていたことをきっかけに鎌倉彫の存在を知り、鎌倉の老舗 博古堂に飛びこんだ。

そこで3年間、鎌倉彫を学び、独立。鎌倉彫は、明治の廃仏毀釈によって生計が立てられなくなった仏師が、盆・皿・文箱などの生活用品を作ったことが始まりだそうである。また、鎌倉彫という名前はよく知られているが、現在その95%がアマチュア産業のため独立して生活することができないということも東さんから伺って、驚いた事実である。

最初は、奇をてらっているのかな、と正直思ったが決してそうではないということがその人柄に触れてみてわかった。この独特の郷愁あふれる世界が東さんのストレートな表現なのだ。




乾漆落書き鉢 この作品詳細はこちら

椿梅椀: 鎌倉彫の技術が詰まっている。

ハート落書き重: 好きな文字で好きなように落書き。

Mushikui-Jyu: 虫が喰った跡をデザインした。この作品詳細はこちら


パソコンを使った作品も制作する東さんはホームページももっている。http://urushi-art.net

文: 岡村英子
info@japan-urushi.net


東日出夫 漆展
会期: 2002年11月11日(月)〜11月18日(月)
時間: 11:00〜19:00 最終日〜17:00 会期中無休
Gallery KAI [介]
〒150-0011
東京都渋谷区東4-9-17 Tel/Fax03-3400-5490
http://www.gallery-kai.com/
e-mail: kai@earth.email.ne.jp



大黒天椀: 表情に愛嬌たっぷり。


東日出夫(あずま・ひでお)さんのプロフィール
1950 東京深川生まれ
1997 慶應義塾大学通信教育課程文学部哲学科卒業
<漆芸>
1975 鎌倉彫博古堂入社
1976 鎌倉彫創作展にて受賞
1978 博古堂退社
漆塗り工房(株)呂修庵設立
1980 伝統工芸新作展入選
1981 独立 制作活動に入る
青山「工雅」にて個展(鎌倉もの)
1982 青山「工雅」にて個展(錆 漆)
1983 青山「工雅」にて個展 (食と漆 )
1984 六本木AXISビル「サボア・ヴィーブル」にて個展
1985 玉川高島屋「サボア・ヴィーブル」にて<箸展>出品
六本木AXISビル「サボア・ヴィーブル」にて個展
新宿住友ビル「ギャラリー花」にて個展
1986 日比谷「ギャラリーいそがや」にて<漆のニューウェーヴ展>出品
六本木AXISビル「サボア・ヴィーブル」にて個展
足利「ギャラリーもみの木」にて個展
新宿住友ビル「ギャラリー花」にて個展
1988 六本木AXISビル「サボア・ヴィーブル」にて個展
1990 玉川高島屋「アルテスパツィオ」にて個展
1991 松山「ギャラリーラピスイロウ」にて個展
1992 玉川高島屋「アルテスパツィオ」にて個展
玉川高島屋「アルテスパツィオ」にて個展にてグループ展出品
銀座「石川画廊」にて個展
神戸「住吉倶楽部」にて個展
1994 六本木AXISビル「サボア・ヴィーブル」にて個展
赤坂「游」ギャラリーにて個展
1995 銀座 季刊「銀花」百号記念「百の手」展出品
ドイツ「Galerie Illuse Lommel」にて個展
(ドイツミュンスター漆美術館買上げ)
新宿「ギャラリー巴堂」にて個展
広尾「ギャラリー旬」にて個展
1996 六本木AXISビル「サボア・ヴィーブル」にて個展
銀座「石川画廊」にて個展
日比谷「ギャラリー巴堂」にて個展
1997 田園調布「ギャラリー仲摩」にて個展
足利「ギャラリーもみの木」にて個展
六本木AXISビル「サボア・ヴィーブル」にて個展
1998 銀座「石川画廊」にて個展
永田町全国町村会館内レストラン「さいかち」壁面作品設置
1999 田園調布「ギャラリー仲摩」にて個展
1999 足利「ギャラリーもみの木」にて個展
2000 大田区内老人介護施設「ゴールデン鶴亀ホーム」壁面作品設置
松山「ギャラリータナカ」にて個展
田園調布「ギャラリー仲摩」にて個展
<現代美術>
1977 神奈川県美術展入選
日本現代工芸美術展入選
1978 神奈川県美術展入選
日本現代工芸美術展入選
1979 神奈川県美術展にて準大賞受賞
日本現代工芸美術展入選 会友認定のち退会、以後無所属
1980 神奈川県美術展招待出品
1981 神奈川版画アンデパンダンテ展出品
1982 神奈川教育文化センターにて<創造への招待展>出品
「自由が丘画廊」にて個展
「伊勢佐木画廊」にて<グループ気>展出品
1983 銀座「ギャラリー手」にて個展(飾ということ)
鎌倉中央公民館にて<シルクスクリーン>展出品
銀座「村松画廊」にて個展
平塚中央公民館にて<JAPAN'3>展出品
1984 平塚中央公民館にて<ぐるーぷ さん>展出品
横浜市民ギャラリーにて<JAPAN'3>展出品
銀座「村松画廊」にて個展
1986 神田「真木画廊」にて<JAPAN'3>展出品
1986 平塚中央公民館にて<ニューイメイジの作家展>出品
1997 新宿「ギャラリー巴堂」にて個展(書くということ)

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