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展覧会見て歩き

井波展を10倍楽しく鑑賞する法 「井波純 漆芸展」

ここ数年、井波純(いなみ じゅん)さんの仕事の中心は組器だそうだ。

しかし、なぜ組器なのだろう。たとえば漆組器「胎」を見て、何かを思い出さないだろうか。そう、仏塔に形が似ている。

「ミャンマーなどアジア各地に漆の源流調査に行きました。

仏塔があるような地域に住む人々は、当然ながら信仰心が非常に厚いわけです。つまり、仏塔の中には何か非常に大事なものが保管されているのではないかと思ったのです。

現代の人は、器を道具としてしか考えていませんが、昔は道具であると同時に、精神的なものでもあったわけです。仏塔を見ることで、器を『大事な気持ちを保管するもの』ととらえるようになりました」


漆組器「胎」


「胎」を解体したところ

普通、作品は外形を見せるものだろう。ところが井波さんは違う。

中に入れるものに合わせて、蓋の内側(裏側)を決め、蓋の内側に合わせて、蓋の外形も決める。

そうすることで、大事なものが包まれているという雰囲気が表現できるというのだ。

ただ、組器を可能にしたのは、井波さんがロクロを挽けるということが大きい。図面を渡して木地師に挽いてもらという方法では、複雑な内部を持つ組器を作るのはむずかしい。



漆組膳「静界」


「静界」を解体したところ

今回の作品で目立つのは、ぼかし塗りの多用である。いわゆるグラデーションである。椀の縁、鉢、もちろん組器にも採用している。

「最近、ぼかし好きみたいですね(笑)。

徹夜で仕事していると、だんだん朝になって、闇が薄れて明るくなるでしょう。逆に昼から夕方になるのでも同じですけど、そういうのって時間の流れを感じますよね」

器の精神性とか、時間の流れとか、なんだか哲学的でとっつきにくい人ではないかと思われると困るので、大急ぎでつけ加えておくが、ご本人はむしろとっつきやすい人である。芸大の先生とは思えないぐらいだ。


漆鉢「陽韻」

組器にしても「遊び」の要素が濃厚である。井波さんはこんな使い方を推奨する。

「全体は見せないで、ひとつずつ出していくんです。

で、食べおわって器が空になったら、横に積み上げていく。

気がつくと、最後に仏塔が出現する。これ、どうです?」

組膳は、ただ乗っているだけに見えるが、実ははめ込んである。これをばらばらにして、お通しから、ちょっとしたおかずを盛ることができるというアイデアである。

ただ、使い方は使い手の自由であることを井波さんは強調する。井波さんの現在の関心は、漆という素材とロクロによる組みの表現で、それを追求しているだけなのである。



漆椀「陰象」

布文漆丸鉢

週に5日、東京芸大で教えている井波さんにとって、制作する時間が足りないことが最大の悩みだ。

「自分が制作することが教育につながるような現場じゃないと、ぼくは教育者にはなれない」

という井波さんにとって、制作できないこと、制作しなくなってしまうことがいちばん怖いのだ、それは、作家でなくなるだけでなく、教育者でもなくなることを意味する。

「でも、学生はやわらかいなあと思うことがあります。

ぼくらはある程度漆のプロセスをおさえた上で新しいことを探すわけですが、学生は、そんなことは無視して、こいうものを作りたいと破天荒なことをいってきます。

じゃあ、一緒に考えようかと・・・」

最後になったが、井波さんの展覧会では、井波さんがいれば井波さん、いないときは係の人を呼んで、ガラスケースを開けてもらい、組器を分解して見せてもらうことをおすすめする。神々しい作品が一転しておもちゃに早変わりする楽しさも、井波作品の重要な魅力だと思う。

文: 岡崎 保




左 漆組器「彩映」高さ23.5cm 右 漆組器「静韻」高さ19.5cm

井波純漆芸展

2002年12月18日(水)から12月24日(火)まで、東京・銀座「和光」4階のアートサロン(TEL 03-3562-2111 内線2031)で開かれている。時間は10時30分〜18時30分。会期中の午後、井波さんは会場に詰めている予定だそうだ。


井波純(いなみ・じゅん)さんのプロフィール
1959年 石川県輪島市の蒔絵師の家に生まれる。大学卒業後、いったんはデザイン会社に就職。31歳のとき東京芸大大学院に入学
1994年 東京芸術大学大学院修了
1996、99年 国際漆デザイン展 金賞受賞
1998年 木と漆のクラフト大賞展 優秀賞受賞
現在 東京芸術大学美術学部工芸科常勤助手

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