ジャパンうるしネット うるし美し、日本の心
コンテンツ一覧
トピックス
展覧会開催一覧
展覧会見て歩き
うるしの学校
うるしの人 (インタビュー)
うるしのエッセイ
うるしクッキング!
私の好きな私の作品
BOOK'Sレビュー
リンク集
バナー広告掲載案内
お問い合わせ
ジャパンうるしネット www.japan-urushi.net/

展覧会見て歩き

フラクタル、その後・・「大蔵達雄 根来漆展」

前回大蔵さんにお会いしたとき、「用の美なんていうのはもう飽きてしまって、いまはフラクタルなものを作ろうとしている」という意味のことをおっしゃった。

フラクタルって何ですか?」とかなり食い下がったが、わからずじまいだった。大蔵さんも気にしていたらしく、今回お会いすると、「栞にしてきたから」といって宿題の答を渡してくれた。



根来粥椀


栞に記された大蔵さん自身の言葉によるフラクタルの説明を全文掲載する。


フラクタルとは、聞きなれない言葉かもしれません。

一言でいうと部分を拡大しても全体と同じように見える自己相似形のことです。

自然界の多くの形態のなかにも見られます。連なる入り江の地形や貝殻の繰り返される模様など・・。

心に安らぎを与えてくれる自然のなかに、身近な美しい物のなかにも潜んでいます。そして、朱漆を研ぎ出して生まれる根来塗りの黒い模様に、わたしはフラクタルを発見しました。

空に遊ぶ雲のように、お碗に浮かぶ色合いの妙を楽しんでいただけたら幸いです。



片口と酒盃と日の丸盆


根来雑煮椀

根来へギ目重箱

根来塗は、もともとは寺の什器である。装飾的な要素を排し、質実剛健を旨とする器である。雑煮椀の、大振りでどっしりとした安定感と布着せを強調した力強い表情、これが根来である。

日の丸盆に乗せられたごつごつした片口ヘギ目重箱の揺るぎない存在感、角切盆の端正な佇まい、これが根来なのだ。たとえ装飾的な要素である輪花を採用していても、根来輪花鉢の荒々しい造形は、まぎれもなく根来である。

しかし、「根来干菓子盆」では何かが揺れている。器と、それを取り巻く空間の境界が微妙に曖昧なのだ。さらに「根来粥椀」。ここでは境界がたわんでいる。



根来干菓子盆

本来、根来塗の黒い模様は人間が作ったものではなかった。時間の産物だった。人間がどう作ろうと、時間の模様にかなうはずもないのである。しかし、根来塗の堅牢な形が辛うじて人間に模様を作ることを許してきたのではないか。その「形」を捨てて、根来塗は可能だろうか。

大蔵さんは根来の黒い模様にフラクタルを発見したという。



根来角切盆

根来輪花鉢

もしかすると大蔵さんは「神」を見てしまったのかもしれないと思う。「完成」を手に入れることができる職人的な手応えを捨て、永遠に「完成」のない、神のみぞ知る創作の領域へ足を踏み入れたのではないか。「空に遊ぶ雲」を追い始めたのではないか。

大蔵さんは、

今回の展覧会は久しぶりにいいかなと思っています

と笑う。「久しぶり」かどうかはともかく、こんなに統一感ある展覧会も珍しいと思う。



根来煮物椀

「売れるかもしれないから、一応飾っておくか」式の余計なものが一切ない。そして、素朴で力強い根来と、「空に遊ぶ雲」の軽やかな根来のせめぎあいが、一種の心地よい緊張感をもたらしている。

文: 岡崎 保




根来粥碗 W145×D125×H85 ハツリ盆 φ36.5×H2.5

大蔵達雄根来漆展

12月17日(火)〜12月23日(月)まで、東京・南青山の酉福(TEL 03-5411-2900)で開かれている。10時30分〜18時30分、最終日は16時まで。作家在廊日は17日〜19日まで。


大蔵達雄(おおくら・たつお)さんのプロフィール
1952年 長野県南木曽の木地師の家に生まれる
1972年 上京して根来塗の村瀬治兵衛(2代目)に師事するとともに、東京デザイナー学院工芸工業科で学ぶ。卒業後、岩手県浄法寺町で漆掻きを習得
1976年 家業の木地挽きものに従事
1982年 伊豆・修善寺に工房を構えて独立
1988年 渋谷で個展。以後各地で開催
1991年 静岡県田方郡函南町に移転、現在に至る

前へ戻る<<<これまでの展覧会情報の一覧を見る >>>次ヘ進む
Copyright 2000-2005 Japan Urushi-Net