|
 |
 |
エルマー・ヴァインマイヤーさん
|
京都でギャラリー「日々」を主宰するエルマー・ヴァインマイヤーさんから展覧会の案内状が届いた。細見美術館の「日本の漆工芸『根来』展」の関連展示として、「朱と黒のぬりもの」と題する展覧会をプロデュースするという。根来の歴史的名品を展示する主展に対し、副展として現代の作家たち、しかもエルマーさんお気に入りの作家たちの「根来」を展示しようという試みらしい。これはもう、新幹線に乗るしかない。
 |
|
|
徳武登志子「大鉢(半身ぬりわけ)
|
 |
|
会場は細見美術館の3階にある茶室「古香庵」だが、まず目に飛び込んできたのは、茶室の前のテラス風のスペースにドカーンと置かれた大鉢である。こね鉢の頑丈な形を、大胆にも朱と黒で真っ二つに塗り分けている。
「どうも部屋の中には納まりきらないので、外に置くことにしました。松本で仕事をしている徳武登志子さんという女性の作品ですが、ビックリするでしょう、この力強さ!」
エルマーさんがうれしそうに解説してくれる。なるほど、「朱と黒のぬりもの」という展覧会のテーマを、これほど直截に示す作品はないだろう。
会場の茶室に入ると、床の間や棚、さらには畳の上にも直に器が並べられている。鉢や椀、片口、銘々皿など、50点以上あるだろうか。しかし一見すると、根来らしい根来、つまり朱と黒がまだら模様になっているような作品は見当たらないのだ。
 |
 |
|
角偉三郎「長手六段重箱」
|
|
 |
|
赤木明登「端反鉢」
|
|
 |
|
大蔵達夫「丸鉢(大)」
|
|
 |
|
谷口吏「レンゲ」
|
|
 |
|
山本英明「片口」
|
|
 |
|
山本隆博「片口」
|
 |
|
「古い根来はとても好きです。根来は、朱がはげてできた模様のことばかり取り沙汰されますが、本来は形が大事です。作られた時点では、朱ははげてはいないので、問題は形だったのです。用途に合わせた、シンプルで力強い形こそが根来なのです。
私が現代の根来にあまり感激しないのは、一つは本当に根来らしい形を作れる人が少ないこと、それから人工的に研ぎ出して作った模様のほとんどに、わざとらしさを感じるためです。たとえば、お碗なら縁のところが、どうしても漆が薄くなります。そこがまず黒くなるのが自然です。ところが、縁は朱で、漆をたっぷり使ったはずの真ん中が黒く研ぎ出してある。それはもう根来ではない。単なる模様です。
そういう意味で、私が納得できるものばかりを展示したのが、今回の展覧会です。だから、偏ってるでしょう、ウッフッフ…」
角偉三郎のどっしりとした合鹿椀や愛嬌のあるだるま椀。あたりを睥睨するような六段重の威容。それとは対象的に、赤木明登は薄い木地でシャープな曲線を自在に操ってみせる。大蔵達夫の椀や鉢は、茶色がかった朱も、ぬくもりのある肌も、朴訥な形も、みんな懐かしい。谷口吏の匙はしなやかで優美なフォルムを見せるが、素朴さも秘めている。山本英明の精緻な仕事は、いまさら云々するまでもないが、山本隆博の片口と並べて見ると、興味津々だった。出品作家すべてに言及することはできないが、たとえばエルマーさんが漆の世界に飛び込むきっかけになった故澤口滋の茶托なども、なに食わぬ顔で紛れ込んでいて、油断できない顔ぶれなのである。
現代の作家がどう根来と向き合い、自分なりに消化し、表現しているかを知る絶好の機会であり、つけ加えれば、「エルマー・ヴァインマイヤー展」として見ても面白い展覧会としておすすめできる。
取材が終わってから、美術館本館の展示を見た。展示室の入口付近からすでに異様な磁場ができていて、わけもなくドキドキするのである。そして実際に本物の根来の前に立って、動けなくなってしまった。私が漆の作家なら、根来をやろうなどと絶対に思わないだろう。
「朱と黒のぬりもの」は2002年6月13日〜6月23日(17日は休室)、細見美術館3階の茶室「古香庵」で開かれている(午前10時〜午後6時)。入場は無料。6月22日には「夜咄セミナー」と銘打ったエルマーさんの講演会がある。テーマは「根来のバラエティー―現代作家による朱と黒のぬりもの」。講演終了後に「朱塗盃にて美酒一献さし上げます」とある。会費は1000円。定員は20名。
なお、細見美術館の「日本の漆工芸『根来』展―朱と黒のかたち―」は2002年5月17日から7月14日まで(月曜休館)。入館料は一般700円、学生500円。
細見美術館
京都市左京区岡崎最勝寺6-3
TEL075-752-5555
(作家の敬称は略しました。エルマー・ヴァインマイヤーさんについて知りたい方は「インタビュー漆の人」を参照してください)
岡崎 保 okazaki@japan-urushi.net
|