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受容と拒絶
「春の企画展」で藤野征一郎さんの作品を見る



テーブルの上に一枚の板が置かれている、とする。その板の表面には漆が塗られ、光沢が美しい、としよう。この上に何を盛ろうか、と普通の人は考える。刺し身にするか、あるいは・・などと楽しい想像が広がる。このとき既に、板は器である。

テーブルの上に一枚の板が置かれている、とする。その表面は溶岩の肌のように凸凹していて、漆は施されているが、荒々しい表情をしている、としよう。その上に何を盛るかなど、想像もしない。それを作った人のメッセージを受け止めるだけである。このとき板はオブジェである。

板皿

ところが、ここに困ったことが起こる。板の表面の3分の1が滑らかに磨かれ、残りの3分の2はザラザラとした表情をしているのである。器のような、オブジェのような物体が展示されているのだ。私たちは器としての使用を許され、しかし拒絶されてもいる。別の言い方をするなら、「さあ、どうする?」と問いかけられているのだ。

「春の企画展」に出品された藤野征一郎さんの作品は、すべて「対比」をモチーフにしている。

見てすぐわかるのは、表情の対比、色の対比である。きれいに磨かれた漆の肌と、自然の木地を生かしたり加工したりした荒々しい凹凸の肌が、ひとつの作品に共存している。
もうひとつは用途と鑑賞の対比、といえばいいだろうか。たとえば掌をわずかにすぼめたような形の「三角板皿」という作品は、ヒョイと立てればまぎれもないオブジェとなる。同じようにブーメランのような形の「板皿」も、横に立てれば、もうオブジェである。

三角板皿
藤野征一郎さん

藤野さんは、自分にとっての漆は画家にとっての絵の具、木工をやる人にとってのノミみたいなもの、つまり道具と考えてきた。アーティストの感覚である。しかし、最近微妙に変化してきたという。

「漆という素材と長くつきあってきて、やはり『使える』ということがどうしても無視できなくなってきました。見るだけではなく、手でさわったり、使ったりすることを望んでいると思うんです。単に工芸の素材としてとらえていましたが、だんだん、日常生活に取り入れていくもの、そして使う側の人間も視野に入れるようになってきました」

2年前に初めて東京で個展を開き、以後個展を開くたびに、プロとしての意識が強くなるという藤野さんだ が、そのへんも関係しているのかもしれない。とにかく、現在の関心は器とオブジェの境界域にあるようだ。

藤野さんは1972年生まれだから、まだ30歳である。しかし、藤野さんの作品には、若い作家にありがちな「俺が、俺が」という嫌味がない。実験的な作品なのに、地に足がついている。ハッタリがないのだ。なぜだろう?

三角板皿
板皿
花器

ひとつは、いい意味で考え方が柔軟なのだろう。たとえば、オブジェも「オブジェとして使われている」という。オブジェも用途のひとつだというのだ。器になるかオブジェになるかは結果にすぎない、ともいう。使う側にとっては、オブジェか器かは天と地ほども違うが、作る側にしてみれば、それほど違わないというのである。

さらにいえば、自分の関心の行方を冷静に見つめるもう一人の藤野さんの存在を感じる。この「もうひとりの藤野さん」が存在するかぎり、その時々の作風はどうであれ、藤野さんの作品は信頼に足る。

「春の企画展」は東京・南青山の酉福(TEL03-5411-2900)で、2002年3月6日〜3月29日まで開かれている。展覧会の詳細は現代工芸ギャラリー酉福のWebサイトで。

岡崎 保 okazaki@japan-urushi.net

藤野征一郎さんのプロフィール
1972年 滋賀県彦根市に生まれる
1995年 金沢美術工芸大学工芸デザイン専攻卒業
1997年 金沢市工芸展奨励賞受賞
1998年 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修了
模型制作会社「日立彫刻」に就職。〜99年まで
2000年 朝日現代クラフト展、日本クラフト展などで入選
初めて東京で個展を開く
2001年 金沢卯辰山工芸工房賞受賞
第28回石川県デザイン展金沢市長賞受賞
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