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5月25日、よく晴れて夏を思わせる土曜日、千葉県印旛郡の願船漆工房で「願船定期セミナー2002・春」が開かれた。主催は、漆を通してアジアの人たちが生活に求めた美・造型・精神性を見直そうと活動している世界漆文化会議(議長は東京芸術大学名誉教授大西長利さん)。テーマは前回(2001・秋)に続き「漆・手から手へ・心から心へ・五感の響鳴」だ。催しは作品展示、講演、アトラクションとして現代舞踏、そして交流会という内容で、40人あまりが集い、楽しい一日を過ごした。


願船漆工房は、芸大を退官した大西さんが、一切の雑音を排して漆と向き合うべく構えたもの。たくさんの木々や竹林に囲まれた広い農家をそのまま使っていて、ちょっとした別世界の趣である。

工房内に展示されたのは、村井信義、西川雅美、古伏脇司、今田悦夫、井波純、辻徹といった、いずれも大西さんの薫陶を受け、日本の漆界をリードする仕事をしている人たちの作品である。つまり、日本の漆の一つの水準が示されているといっていい。むろん、大西さんの作品も展示されていて、一つ一つ鑑賞していると、時間はあっという間に過ぎていく。

大西長利「乾漆朱の器」
村井信義「朱研出皿『麗』」
西川雅美「銀の花器」
古伏脇司
「ぎょぎょ、と鳴く 00-12」
今田悦夫「漆花器」
井波純「漆組器」
辻徹「あかり」

大西さんの講演が始まった。タイトルは「漆・生命の耀き」。

自分と漆の関係をつきつめて考えようとしてこの工房をつくったこと。「願船」とは親鸞の言葉からとったもので、地球は願いを乗せた船であり、未来へ向けた言葉であること。そしてライフワークとなった長江流域の漆文化源流調査に話は進み、「文明とはいったい何だろうとつくづく考えさせられる旅です」というあたりから、話は本題に入る。

「『漆の国・ジャパン』といわれるけれど、もう自信がないですね。昔の日本人がいかに漆を愛し、漆と調和して生きていたか。私は『一家に1本、漆の木を!』といってます。願船にも6本あります。漆の芽は山菜としても非常においしい。我々漆を扱う人間は、ときどき漆を舐めます。内臓にいいんです。体の不協和音を中和してくれます。漆の木をそよそよそよがせる、これが大切なんです」

「漆を365日、毎日毎日使う。そういう輪を広げたい。そのためにこんなおしゃべりをしているわけです。ご飯を漆の椀に入れてごらんなさい。宝石のように輝きます。でも、本物の漆の器じゃないとダメです。器というものをぞんざいに考えてはいけません。茶道では器に合わせて茶席を建てます。器は東洋の美の極致です。形を目で楽しみ、手に持った感触を楽しみ、匂いをかぎ、上げ下げの音を楽しむ。すべてにおいて漆ほどやさしいものはありません。そんなときテーブルがデコラ張りでは台無しですよ」

「化学式などみんなわかっているけれど、漆を人工的に作ることはできません。漆そのものが美しいんです。ただ、漆は液体ですから、形を与えてやらなくちゃいけない。では形とは何か。いろんな情報を集めて、ちょうどいいもの、現代に合うもの、商品化されやすいものを作る、それは形じゃない、デザインです。形というのは自分の中から出てくるものなんです」

「我々が提供したいのは本物の漆です。いまの日本人が自信をなくしているのは、本物を使わなくなったからです。本物のお椀でみそ汁をのんでごらんなさい。味が気になるはずです。具も、これでいいかと思うようになる。それが一応整ってくれば、日本人としての自信が出てくる」

1時間以上にわたって、大西さんは漆のやさしさ、深さ、漆への愛を語り続けた。

次に芸大助手の井波純さんが「大西先生にみんないわれちゃって、困りました」と苦笑しながら登壇した。タイトルは「漆と暮らし 問題と提案」。

井波さんは、輪島の蒔絵師の家に生まれたこと、大学を出てインダストリアル・デザイナーとして就職したが、自分の手の痕跡を残したいと思い、蒔絵の修行に入ったこと、蒔絵の年季は明けたものの、蒔絵の下にある塗りについては何も知らないことに気づき、さらに輪島塗りの修行をしたことなど、まず自己紹介から話を始めた。そして明治以降の漆の流れをざっと追ったうえで、「バブル期は絵がついてさえいれば何でも売れた。いわば加飾の時代。バブルがはじけ、不況となって、装飾的な部分が嫌われ、それに代わる打開策が見えない状況」にあるのが現在だという認識を示した。

「漆のイメージは固定化しています。つまり、高い、扱いにくい、触るのも怖い。こうした風潮をどうすればいいのか、自分たちは絶えず考えています。そういう中で、たとえば自分が作ったものを、年に何回か、直接使い手に届けるというような動きが、少しづつですが、産地に出始めています。作り手と使い手の間に会話ができつつあるのです。とにかく漆のよさを知っている人が、それぞれの場所で、それを伝えていく、そういう草の根的な運動をしていくしかないと思います」


しばしの休憩の後、交流会が始まった。漆作家、芸大生、地元で漆を植えている人、ジャーナリスト、漆ファンなどなど、当然ながら話題は漆一色。酒が入り、ちらし寿司が漆の大皿にどっさり。座は大いに盛り上がる。

明るさがまだ残り、やがて薄闇に変わる頃合いを見計らい、芝生の庭で、カガヤサナエ、友恵しずね白桃房による「演舞」が始まった。酒宴の続きぐらいの軽い気持ちで見始めた人が大半だったと思う。ところが、その張り詰めた美しさにぐいぐい引き込まれ、打ちのめされ、圧倒されて見終わることになった。興奮さめやらぬまま、酒宴が第2部へと突入したことはいうまでもない。

「願船定期セミナー2002・春」の作品展は5月25日(土)〜6月9日(日)まで、願船漆工房(千葉県印旛郡印旛村師戸80 FAX0476-99-0739)で開かれていて、会期中は自由に鑑賞できる。

岡崎 保 okazaki@japan-urushi.net


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