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ギャラリーに一歩足を踏み入れたときの印象は、黒と朱、2色の世界である。ほかに目に入ってくるものは何もない。
見慣れた形の漆器が並んでいるだけ・・。しかし、入月さんの話を聞いていて、だんだん鳥肌立ってきたのだ。
入月さんは「あまり語りたくないんだが」といいながら、取材者を気の毒と思ったのだろう、最近、どんなことを考えて仕事をしているか、2つのキーワードを挙げてくれた。
「まず、形の上のことでは『直線的』とでもいうかな。あとは色。見てのとおり、黒が多い。今回思い切って黒をやってみたんです」
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左から溜塗深鉢、朱塗椀
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入月さんはろくろを挽いている時間がいちばん充実しているという。つまり「形」ということである。「数年前までは、独特のカーブを出そうとか、どこにもない曲面を作ろうとか、一生懸命やっていたんです。ところが最近は、一見見過ごされるような、どこにでもある形、でも、そこにしかない形を出したいと考えているんです」
昔は自分にしか出せないような、独特の、微妙な曲線で勝負していたのである。でも、「独特」とか「微妙」とかを取り去ると何が残るのか。これが「直線的」の意味である。
実作で見ると話が早い。「真塗大鉢」と「真塗輪華鉢」。どちらもシンプルだが、仕事としては後者のほうが手が込んでいるのは一目瞭然である。しかし、入月さんが好きなのは前者だ。「いまの自分の気持ちがストレートに出ている」という。
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真塗大鉢、真塗輪華鉢
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ここまでくれば、「なぜ黒か」は想像がつく。最も形をごまかさないのが黒なのだ。「独特な」形ではないことを、いちばん強調するのが黒なのである。しかも、いっさい研かない。塗りっぱなしである。しっとりした肌、抑制された光沢を好むからだ。艶もまた形をごまかす(従って、上塗りはすべて国産漆を使う。ただ、日本産漆が世界一という、いわゆる国産漆信仰とは一線を画す。自分の仕事は国産漆でなければならないが、中国の人には中国の漆がいちばんなのではないかという)。
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溜塗盤
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「あまり積極的に人さまに話すことではない」「先のことはわからない」など「語りたくない」を連発する入月さんが、最後に「語っちゃったよ」と苦笑した。思えば、入月さん同様、寡黙で、潔くて、いなせな器たちである。忘れがたい。また、冒頭に2色の世界と書いたが、入月さんがいちばん自然に近いという溜塗りもあるし、確か1点だけ、2色使いの盆もあった。しかし、こんなに一つの「思想」で貫かれた展覧会もまれだと思った。
「入月 昇 漆芸展」は2001年7月5日(木)〜7月14日(土)まで、銀座7-2-22同和ビル1Fのギャラリー田中(TEL03-3289-2495)で開かれている。11時30分〜19時、最終日は17時で閉場。日曜は休み。作家在廊日は5日、7日、11日、13日、14日。
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