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「ヤナカノラ」という作品の解説をしてもらう。「谷中にいる野良猫」略して「谷中野良」だそうだ。

「ヤナカノラ」 木芯乾漆

作品は木芯で、檜の木を猫のかたちに削り、しっぽと足は強度を増すため真鍮を使っている。やすりで真鍮の表面を荒らしたところに太い綿糸を巻き、漆を染み込ませる。

全体に麻布を張り錆漆(※2 さびうるし)で固定する。麻布を張ることで木と真鍮の境目が滑らかになり強度も増す。ここまで聞いただけでもその工程の多さに驚く。

さらに話しは続く。

「休む汗血馬」脱活乾漆
「鷹の子」木芯乾漆

錆漆で麻布を固定させ乾かし、麦漆(※3 むぎうるし)に木粉をまぜ粘土の固さぐらいに練り、竹べらで全体に薄く塗り付ける。乾いたらまた同じ作業を何度か繰り返し、少しずつ木芯に肉を付けていく。形が整ったところで、肉を付けすぎたところを彫刻刀で削り、また足りないところには肉を付けていく。

使っている材料は木粉・漆・小麦粉なので、乾いて硬くなっても彫刻刀の刃が欠けることはないそうだ。最後にはサンドペーパーをかけ、質感に統一性を持たせてこの作業は終わる。そして全体に錆漆を塗って作品の完成となる。

ところで、この猫の目が光っているのはなぜだろう?目は朱合漆(※4 しゅあいうるし)を塗って仕上げているから。そう言われると、他の作品も光沢のあるものとないものがある。仕上げに塗る材料に漆の配合が多いほど光沢が出るのだとのこと。

レリーフ「笑う弁柄」石膏型

なるほど。バランスを考え、混ぜる量を調節し漆の性質を生かしている。この工程は「ヤナカノラ」のもので、同じ技法の作品もあれば、違う材料と工程を経て作られるものもある。

同じ猫をモチーフにした作品が「ヤナカノラ」の後ろに飾ってあるが、こちらは脱活乾漆で作られている。

粘土で形を作り、上に麻布を張り錆漆で固める。3枚ぐらいの布を張り固めたあと、大きく窓を切り開け粘土を取り出す。切り口に錐(きり)で穴を開けて、タコ糸で縫って閉じる。さらに布を張って全体を固める。あとの工程は先に紹介した「木芯」とほぼ同じ。


◆これらの技法を使い分ける理由は?

「そのときどきで自分がやりたい、と思ったことをやっているだけです。理由らしいものはありません」「完成してみれば木芯も脱活も外見では見分けがつかないでしょう」

たしかに分からない。石膏型に錆漆と麻布を込めて制作された虎のレリーフもあった。

「DREAMERS」木彫と乾漆
連作の中のひとつ

これらの動物達と違う趣の「DREAMERS」と名付けられた5つの木彫作品があった。

小さく切った松の角材を、デッサンをもとに積み上げていく。接着材に墨をまぜると、どこを切っても墨の分割線が出る。帽子・服・唇には朱合漆と顔料が使われているが、白だけは白土を膠(にかわ)で溶いて塗っているという。


◆これらの作品と動物たちの接点は?

「私は猫科の動物が好きなんですが、もちろん動物そのものも大好きで…。木と漆を使って作品を作っているので、人間と自然の関係みたいなものを自分なりに表現してみたかったんです。」

「DREAMERS」の連作5点


「鳥」 帽子の上にとまっています

普通の大学を卒業し、サラリーマン生活を約14年続けた今野さん。夜間の美術系予備校に通い、38才で東京芸大彫刻科に入学。大学院で木彫を学び、卒業後、同じ大学院の「保存修復」の研究室で新薬師寺四天王の修復に携わった。そこで漆を使っているうちに、乾漆の道に自然と入っていった。そこから試行錯誤を経て、7〜8年前から今のスタイルで乾漆彫刻制作を本格的に始めたそうだ。

「このまま一生を終わってしまうのはつまらない」

サラリーマン生活を捨ててこの道に入った今野さん。これからもこの強烈な独自の道を突き進んでほしい。

取材・文 岡村 英子

※1 乾漆: (かんしつ) 漆技法のひとつ。木芯(もくしん)乾漆と脱活(だっかつ)乾漆とがある。生漆・地粉・砥粉をまぜたものを、木や粘土の芯材の上に塗り、刻苧と麻布を交互に張り重ね、形を整えながら漆を塗る。木芯は、芯材を中に入れたままにし、脱活は漆が乾燥してから内部の芯を脱却する。奈良時代から仏像・箱・器などがこの技法で作られてきた。
※2 錆漆: (さびうるし) 砥粉と漆をまぜたもの。
※3 麦漆: (むぎうるし) 小麦粉と漆をまぜたもの。
※4 朱合漆: (しゅあいうるし) 漆の1種。色は透明。

今野 彦 乾漆彫刻展
会期:2002年9月10日(火)〜9月23日(月・祝) 時間:10:00〜19:30 最終日は17:30まで
会場:日本橋三越本店6階アートスクエア
〒103-8001 東京都中央区日本橋室町1-4-1 TEL:代表03-3241-3311

※ 今野 彦によるギャラリートーク
テーマ:乾漆について
日時:2002年9月22日(日) 14:00から30分間の予定
会場:日本橋三越本店6階アートスクエア

今野 彦(こんの げん)プロフィール
1944年 横須賀に生まれる
1986年 東京芸術大学彫刻科卒業
1988年 東京芸術大学大学院彫刻専攻修了
1990年 東京芸術大学大学院保存修復技術修了
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