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祖父で初代の春斉は木地師、父雅峯は塗師、そして三代目の春斉さんは蒔絵師である。こういう家柄に生まれたのだから、幼少のころから相応の育てられ方をしたのだろうと思ったら、そうでもないらしい。子どものころは家の仕事を継ぐのはいやだったという。
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三代目 前端春斉さん
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「伝統工芸の世界は、でき上がりは確かにきれいですけど、そこにいたる工程は、とてもきれいなんていうものじゃないんです。学校から『ただいま』と帰るでしょう。父がろくろで研ぎ物をしているんです。もう顔中泥だらけ。やっぱり、いつもネクタイをしているような仕事をしたいなと思いました。ほら、私の手、見てください」
差し出された春斉さんの手を見ると、爪に黒く漆がこびりついている。いくら取ろうとしても、もう落ちないのだそうだ。小学校の高学年から仕事の手伝いはしていた。しかしそれは、将来に備えてではない。むしろ逆で、将来は別の仕事をする、だからいまのうちだけ手伝う、と自分に言い聞かせていた。
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流水蒔絵竹硯箱
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気がついたら漆の世界に入っていたという感じだ、と春斉さんは言う。金沢で2年ほど修行し、家に帰ってからの父親の仕込みがすごかった。弟子たちの手前もあり、父は一層厳しく息子である春斉さんを鍛えた。
何を受け継ぎ、何を自分は新しく付け加えたと思うかと、春斉さんに聞いてみた。とんでもないという顔で、春斉さんはこう答えた。
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陶漆溜塗南蛮人蒔絵茶碗
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「自分で何かを付け加えたなどと、そんなことをいえる身分ではありません。今回、陶漆(注)をかなり展示しました。一般の方は陶漆というと何か目新しい技術だと思われるかもしれません。でも技術にしろ形状にしろ、私がやっていることはすべて古典の写しです。いまは集中して古典の勉強をしようと思っています」
春斉さんはこちらが恐縮してしまうほど謙虚な方だが、この謙虚さは、先人の技や古典の持つ物凄さを畏怖するところから生まれたのではないかと思った。と同時に、漆の未来の可能性をどう拓いていくか、危機感を持ちながら模索してもいる。たとえば、バス釣りのルアーに蒔絵を施す、などという大胆な試みもあるらしい。古典には徹底して謙虚に、しかし新しい試みは大胆に。いつだって伝統を守る活路はここにしかない。
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唐人傘煮物椀
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展示されている約80点の作品は、いずれも春斉さんの勉強の成果を示して余りあるものばかりである。精緻な仕上がりの棗、ゆたかな表情を見せる水指、重厚な茶道具たちである。その中で、かわいらしい朱塗りの菓子箪笥に目がとまった。近頃のギャルの「カワイイ!」という流行のアクセントが響くような気がしたのは、春斉さんの「もっと若い人に漆を」という話が、頭に残っていたためかもしれない。
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花丸四君子蒔絵朱塗菓子箪笥
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「三代 前端春斉 漆工展」は2001年7月3日(火)〜7月9日(月)まで、日本橋三越本店(・03-3241-3311)6階美術特選画廊で開かれている。最終日は16時30分で閉場。
岡崎 保 okazaki@japan-urushi.net
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〔注〕陶漆(とうしつ)
木ではなく、素焼きの状態の陶器を素地とし、これに生漆をやわらかく溶かしたものを吸い込ませ、焼き付ける技法。木に比べ、狂う心配がない、陶器では出せない蒔絵のよさが出せるなどの特徴がある。 |
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陶漆白檀塗雲錦蒔絵皆具
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