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2001年
モリシゲのショ-ルームを訪ねて

伝統技法による華麗な漆塗家具に思わずため息

香川県は漆の伝統的な技法の宝庫といってもいいだろう。中でも蒟醤(きんま)、存清(ぞんせい)、彫漆(ちょうしつ)、後藤塗、象谷塗(ぞうこくぬり)は、伝統的工芸品産業振興法により国から産地指定を受けている。株式会社モリシゲは、高松に本社がある家具の製造・販売メーカーだが、特に伝統技法による漆塗家具の分野では、他の追随を許さない技術水準の高さを誇っている。その華麗な世界を堪能すべく、東京・渋谷のショールームを訪ねた。案内してくださったのは東京営業所・所長の和田睦生さん。

渋谷駅から明治通りを恵比寿方向に5、6分歩くと並木橋の交差点に出る。

そこを右に曲がり、跨線橋を渡った左側のビルの2階にショールームがある。家具のショールームだから、ある程度の広さは当然だが、ここがゆったりと感じられるのは、商品を所狭しと並べていないからだ。高級感ただよう贅沢なスペースになっている。

入ってすぐ左側に、香川県の伝統技法を使った食器のコーナーがあり、まずここで、実物を手にしながら各技法の説明を受けた。それは最後にまとめて紹介するが、いずれもミリ以下の極小の世界の手技である。そして根気のいる仕事でもある。30回、50回と漆を塗り重ねる。まれには100回塗ることもあるという。100回塗り重ねてできる漆の層の厚さは3ミリ。しかも、その1回1回に乾燥という工程が必要なのだ。生産性の面からいえば、こんなに割りの合わない仕事はない。

蒟醤花台模様

しかし、展示された見事な家具を見ていけば、漆と技と根気、そうしたものを通してしか得られない美しさがあることも明らかである。漆の色は、あんなに鮮やかなのに、決して眼を刺すようなことはない。深くて、渋い。そしていつまでも鮮明さを保つ。

漆は生きている、と和田さんはいう。家具が出来上がったとき、それはいわば赤ちゃんの誕生と同じなのだ。扱いには十分注意しなければならない。いちばん大切なのは紫外線をカットすること。太陽光はもちろん蛍光灯の紫外線にも反応するという。だから、家具の上に何かを置くと、その部分は紫外線がカットされ、色ムラができてしまう。条件にもよるが、買って半年から1年は赤ちゃん、人間でいう「成人」に成長するには3年は辛抱しなければならないという。

蒟醤花台

さらに、漆は四季の中で成長するのだそうだ。高温多湿の夏、低温乾燥の冬、それを繰り返し経験して成長していく。ところが今は空調が完備している。一年中一定の温度、一定の湿度という環境は、漆にはつらい。いわばモヤシになってしまうのだ。

和田さんの話でいちばん驚いたのは、日本の女性の髪では、もう刷毛は作れないということである。漆職人はみな使う道具は自分で作る。刷毛も女性の黒髪で作っていた。ところが日本の女性の髪は、洗剤などで痛めつけられていて、刷毛に必要な力がまったく出ないというのである。やむなく現在は東南アジアや中国から輸入した髪を使っているそうだが、私たちがいかに自然と離れた生活をしているか、漆がそれを教えてくれているといってもいいだろう。

漆を家具にどう生かすか、扱いの難しさを少しでも軽減するために、例えばテーブルの天板のような広い水平面には変化しにくい黒などを使い、変化しやすい朱やその他の色は扉などの垂直面に使うなど、さまざな工夫もなされている。

モリシゲでは、外部の職人に仕事を発注するのではなく、伝統工芸師として職人を雇い、木地、塗り、彫り、すべてを一貫生産しているという。漆という伝統、漆という自然を扱う企業として、当然とはいえ立派だと思った。

以下、各技法を簡単に解説する。

蒟醤(きんま)
蒟醤の点彫による硯箱
蒟醤の点彫による硯箱の模様拡大図

この技法のルーツはミャンマーにあるといわれ、それを日本で研究し、はじめて製作したのが玉楮象谷(たまかじ・ぞうこく 1807〜1869年)である。象谷は香川漆芸の始祖とされる人。漆を丹念に塗り重ね、塗面に厚みを持たせる。独特のケンと称する刀で模様を線彫りした後、全面に色漆を塗り、炭で研ぐ。彫った部分にだけ色漆が残る。沈金と似ているが、沈金は彫った部分にだけ色漆を充填するのに対して、蒟醤は全面に塗り、余分な漆を研ぎ落とす。繊細、華麗、優雅な趣を特徴とする。

蒟醤のティーテーブル
蒟醤のティーテーブルの模様拡大図
存清(ぞんせい)
存清のサイドボード
存清のサイドボードの模様

中国の名匠、存清が始めた技法なので、この名がある。やはり玉楮象谷が純日本風の存清漆器として作り上げた。これは模様の輪郭を毛彫りし、彫った部分に金泥を埋めるという技法。毛彫りせずに金泥で縁取りしたもの、あるいは金泥を埋めずに、毛彫りしたままのものなどがある。自由闊達で気品ある風趣を特徴とする。

彫漆(ちょうしつ)

表面に塗り重ねられた漆の層を彫り、模様を創り出す技法の総称。同じ色の漆を塗り重ねたものと2色以上の漆を塗り重ねたものに大別される。前者は 黒なら堆黒(ついこく)、朱なら堆朱(ついしゅ)、黄なら堆黄(ついおう)と呼ばれ、彫刻の断面が淡く木目模様の層のようになり、雅趣をそえる。また後者は紅花緑葉と呼ばれ、色彩の変化に富んだ華麗な模様を創り出す。

後藤塗
後藤塗サイドボード
後藤塗サイドボードの模様

明治30年頃、後藤太平が考案したので、この名がある。 中塗の上に、朱漆に少量の蝋色(ろいろ)漆を混ぜて渋みを出したものを薄く塗る。そして直に指先で叩き、特殊な斑紋を作る。最後に透漆を塗り込んで仕上げるという技法。年数が経つにつれてと、仕上げの透漆の透明度が増し、朱漆の斑紋が現れてくる。その濃淡の優美さを特徴とする。

象谷塗(ぞうこくぬり)
象谷塗の脚を使った座卓

玉楮象谷が中国と日本の技法を総合して考案した。素地にガラ筋と呼ばれる幅広の線を入れ、ろくろの荒挽のような凹凸のある仕上げにする。そこに弁柄(顔料)摺りをし、生漆を拭き、菰打ち(水生植物「まこも」から得られるセピア色の粉末を振りかける)をした後、拭漆仕上げをしたもの。一見乱雑に見えるが、民芸風の素朴な味わいと堅牢さが喜ばれている。

株式会社モリシゲ東京営業所ショールーム
東京都渋谷区東1丁目32番12号 渋谷プロパティー東急ビル
TEL(03)3486-5750 FAX(03)3486-6520
URL:http://www.morishige-furniture.co.jp/

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