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室瀬和美さんの講演会
「作家と見る蒔絵と螺鈿の器」を聴く
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会場には40人あまりの熱心な漆ファンが集まった
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東京・南青山の根津美術館では、今年(2001年)4月から来年3月まで、9部に分けて開館60周年記念展を開催している。いま開かれている「東洋の陶磁器と漆芸展」(9月9日まで)は、その第4部にあたるが、9月1日、展覧会に連動する企画として漆芸作家・室瀬和美さんの講演会が「作家と見る蒔絵と螺鈿の器」と題して開かれた。
室瀬さんは、「漆の人インタビュー」にも出ていただいたことがあるので、ご存じの方も多いと思うが、漆芸文化財修復の第一人者でもある。
今回の講演会は、根津美術館所蔵の作品を実際に会場に持ち込み、その見どころを室瀬さんが解説するという形で進められた。実物を間近に見ながら、あるいはマイクロスコープで作品を拡大して見ながら聞く解説なので、わかりやすい上に、内容そのものが非常に楽しく、集まった40人余りの漆ファンも満足の2時間を過ごした。
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| ●その1「蒔絵扇面業平図硯箱」 |
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伝尾形光琳作「蒔絵扇面業平図硯箱」
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柴田是真作「蒔絵扇面業平図硯箱」
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まず取り上げられた作品は、江戸中期の絵師・工芸家、尾形光琳の作といわれる「蒔絵扇面業平図硯箱」と、幕末の蒔絵師、柴田是真がこれを模造した作品である。非常によく似せてあり、まず素人には鑑別不能。この2つを比較してみようという趣向だ。
この作品の技法は平蒔絵といって、上塗りした漆面に蒔絵を描いて、そのまま研いて仕上げるという、蒔絵としては最も単純なものである。しかし、単純なだけに筆のタッチはすべて残り、テクニックの差がはっきり出る技法でもあるという。光琳作というはっきりした証拠はないけれど、この時代にこれだけの技量を持った人は光琳しかいないということで、作者は光琳ではないかと推測されているらしい。
オリジナルは模造の時点で150年ぐらい経っている。当然傷はあるし、鉛板も剥げている。是真はそれらをも忠実に真似ていて、それも見どころの一つだ。古びた感じも見事に再現している。しかし、何となく違う。何が違うのだろうと室瀬さんは考えた。
着目したのは金粉の粒子の大きさである。マイクロスコープで見ると、是真はオリジナルよりも1段階か2段階細かい粒子の金粉を使っているのである。そのため、例えば髪の生え際などが、オリジナルに比べてくっきりしている。これは聴衆もマイクロスコープで確認した。
さらに、漆の色が違うのである。漆は有機物なので、長い年月の間に紫外線で劣化する。お肌の曲がり角と同じだ。江戸中期に塗られ、150年かけて劣化した色を、幕末の漆で真似することは不可能である。そして、いちばん致命的なのは、オリジナルは塗り立てといって研かないで仕上げる手法だったのに、是真が研いてしまったことだ。オリジナルの光沢は150年も使うことで得たものだ。それを真似しようとして研いたために、模造品は鏡のように固く輝いてしまったのだ。
最後に、室瀬さんがびっくりすような指摘をした。オリジナルを分解すると、柴田是真のサインがあったというのだ。これも聴衆は確認できた。ということは、オリジナルだと思っていたのは、実は是真の作ではないのか?室瀬さんは苦笑しながら次のように解説した。
「まったく研究者泣かせのいたずらです。是真はいまごろあの世で、バレたかといって悔しがっているかもしれない。いや、いまごろわかったのかといって、ほくそ笑んでいるかもしれませんね」
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| ●その2「瀧山水蒔絵硯箱」 |
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これは18世紀後半に作られた作品で、作者は不詳。一口に蒔絵といっても、平蒔絵、研出蒔絵、高蒔絵、肉合(ししあい)蒔絵などさまざまだが、この作品はそれらの技法をフルに使って製作した美術的にも立派な作品である。しかし、それだけなら、展覧会でガラス越しに鑑賞しても事足りる。
実は、この硯箱の蓋(ふた)にはカラクリが隠されている。左側に瀧が、右下に水車が描かれていて、蓋を外して垂直に立てると、瀧に水が流れ、水車が回る仕掛けになっているのだ。これも聴衆は実際に見ることができた。
この蓋は二重蓋になっている。普通、硯箱の蓋は5〜6ミリの厚さで作るのだが、この作品は9〜10ミリある。しかも重い。つまり、3ミリほどの板を上下に張り、中を空洞にしてあるのだ。こうして作り出した狭い空間に、象牙を彫って道路を作り、そこに水銀を流すという仕掛けである。
「この作品が作られた江戸中期には、カラクリ的な漆工品がそこそこ作られました。技法よりもカラクリに力が注がれ、美術的にあまり見るべきものがない時代ともいえます。しかし、この作品は美術的にも満足させてくれるし、カラクリも非常に面白いものです」
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| ●その3「蟷螂螺鈿香合」 |
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これは根津美術館からの依頼で室瀬さんが修復した作品。螺鈿の螺は、殻が渦巻き状をしているものの総称で、鈿は輝くという意味。貝には巻き貝と二枚貝があるが、螺鈿に使うのは巻き貝であることがこれでわかる、といった具合に、室瀬さんの説明は極めて明快で、目からうろこが立て続けに落ちる。
この作品は、貝に細かい線を彫刻刀で入れて羽根の感じを出したり、足のギザギザまで表現するなど、神経が行き届いていて、室瀬さんも好きな作品だという。かまきりのとぼけた味わいも面白く、聴衆からは「かわいい!」という声も上がっていた。
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| ●その4 質疑応答 |
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「漆の色はもともとは何色ですか」
「漆は日本の発明ですか、中国ですか」
「呂色という言葉がありますが、あれはどういう色ですか」など、活発に質問がなされ、室瀬さんは一つ一つに丁寧に答えた。長くなるので、それは割愛させていただき、最後に、印象に残った室瀬さんの言葉を紹介して、このリポートを終わる。
「漆は英語でジャパンといわれ、辞書にも確かに書いてあります。しかし、それは蒔絵が盛んに輸出された17、18世紀頃の話で、いまヨーロッパでジャパンといっても、けげんな顔をされてしまいます。現在はラッカーワークという言葉で、漆も他の塗料も一括して表現されます。ぼくは、漆をやる人間として、くやしいですね。漆はラッカーじゃない。そのことを我々自身が自覚し、誇りをもって外国の人たちに訴えていきたい。そのためにも『うるし』という言葉を外国でも押し通して使っていいんじゃないかと思っています」
※今回取り上げた作品は、いま開かれている「東洋の陶磁器と漆芸展」には展示されていません。
作品写真は根津美術館提供
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| 根津美術館 |
所在地:東京都港区南青山6-5-1
TEL:03-3400-2536
開館時間:9時30分〜4時30分(入館は4時まで)
休館日:毎週月曜日(ただし月曜が祝休日の場合は翌日)
入館料:一般1000円 学生700円
交通:地下鉄銀座線、半蔵門線、千代田線の表参道駅から徒歩5分
URL:http://www.nezu-muse.or.jp/ |
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