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中島敦子さん |
蒔絵の精緻さに圧倒されたり、手に伝わるお椀の温もりに感動したり、そうした漆の展覧会は決して少なくない。しかし、漆の展覧会で“夢”を感じることはまれだ。中島さんの漆展は、その貴重な例といっていいと思う。
取材前の興味は、中島さんの略歴に関することだった。案内状によれば、中島さんは芸大の「大学院油画専攻修了」である。それがなぜ漆に転向したのか。元油絵画家はどんな漆作品を作るのか。展覧会を見終えたいまでは、略歴の問題よりも作品そのものの魅力に興味は移っているが、取材前の疑問に対するご本人の説明を、まず書いておこう。
「私が大学院でやっていたのはテンペラです。テンペラというのは、油ではなくて、卵黄や酢で顔料を練って、それを絵の具として使います。昔のイタリアのイコン(聖画像)などはテンペラです。ヨーロッパは空気が乾燥しているので、テンペラは何百年ももちますが、日本は湿気が多いので、カビが生えてしまうのです。
ところが漆は何百年たってもカビが生えない。なぜだろう。つまり最初は化学的な興味だったのです。


お茶椀「しののめ」
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そうして高岡短大で漆を勉強し始め、あちこちの展覧会などを見にいっていて、あることに気がつきました。それは漆の黒のきれいさです。油絵やテンペラは顔料を他のものと練って黒い色を出すので、なんかきたない黒なんです。調べてみると、漆の黒は顔料を使わない、漆そのものなんですね。だからあんなに透明で、それなのにどこまでも闇という黒が出るんだとわかった。
漆の黒はすごい! で、本気でやろうと思ったのです」
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乾湿「木霊の棲家」
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大筒「木霊模様」
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尺二盆「月の砂漠」
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香合「こんこん」
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ぱた
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さな椀「ぐりん」
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盛台「りんりん格子」
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この展覧会の印象をひとことでいえば「多種多様」だろう。まず色がカラフルだ。それも従来の漆の色だけではなく、漆にはめずらしい鮮やかな色も多い。椀や重箱など実用的なものから、壁飾りやアクセサリー、バッグまで、用途も幅広い。
話を聞いてわかったが、使われている技法も中島さんが工夫したものから伝統的なものまで、素材は木、和紙、布、ひも、さらに色箔という日本画の材料まで、実にさまざまである。綿ロープで縄文土器風の表情を出した「木霊の棲家」「木霊模様」や民族的な味わいの「ぱた」などの作品があるかと思えば、「尺二盆 月の砂漠」はメルヘンの世界だ。 「こんこん」と題された香合のシリーズや「ひもあそび」「ぬのあそび」と題されたぐい呑みのシリーズの華やかさ、にぎやかさは、若い女性のおしゃべりにも似て、生命感にあふれている。などなど、数え上げれば全作品に言及しなければならない。
ここで大切なことは、「多種多様」と書いたが、決して「雑多」ではないということだ。はっきりとした統一感がある。中島敦子というたぐいまれな個性が会場の隅々まで浸透している感じだ。
ところで、「こんこん」「ぱた」「さな椀」など、作品には耳慣れない銘がついているものがある。これは解説してもらわなければわからない。
「私は計画性がまったくなくて、木地師さんに頼まなければいけないもの以外は、図面も描きません。頭の中にイメージがまず浮かんで、それが熟してきて形になる。そして作りながらイメージを言葉にする作業をします。いろんな言葉が浮かび、悩んだりすることもあります。最終的には一つに絞りますが、それは私の造語だったり、詩の一節だったり、誰かの言葉だったりするわけです」
「こんこん」は「こんこんと水が湧く」「こんこんと眠る」「一献いかが」などの意味をすべて込めた「こんこん」であり、「ぱた」は単に「旗」だけではなく、「はたはたとはためく」という様子をも表し、「さな椀」は「さなぎ」を「ものが中で成長していく器」ととらえて命名したのだそうだ。イメージの世界の話だから、すべての人が「なるほど」と納得はしないだろうが、少なくとも中島さんの制作の方法の一端はわかる。
どうすれば漆を生活の中に取り戻してもらえるか、漆関係者は日夜頭を悩ませているわけだが、中島さんの自由な発想とセンスは、大きなヒントになるのではないか。もちろん中島さん自身は、そんなダサイことはちっとも考えていないだろうが……。
「中島敦子の漆展」は2003年1月21日(火)から1月27日(月)まで、日本橋三越本店(TEL.03−3241−3311)6階美術サロンで開かれている。時間は10時〜19時30分(ただし、日曜は19時、最終日は16時30分で閉場)。
文と写真: 岡崎 保
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| 中島敦子さんのプロフィール |
東京芸術大学大学院油画専攻修了
高岡短期大学漆工芸専攻研究生修了
漆芸家 並木恒延氏に師事
1989年〜 日本現代工芸美術展
1995年〜 日展
1997、1999年 日本橋三越本店にて個展 |
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