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大下さんのメインの仕事は茶道具であり、会場もまた茶道具を扱う「益田屋」の2階のギャラリーなのだから、約90点ほどの展示品の大部分が棗などの茶道具であるのは当然である。しかし、大下さんは普通の食器もたくさん作っている。それは、お茶の世界と普通の生活をいかに密着させるか、それを漆でどう実現するかが、大下さんの積年のテーマだからだ。というより、茶道具を中心に、時代時代で椀なども作ってきた大下家4代のテ
ーマといってもいいのかもしれない。
大下さんが生まれた石川県山中町の奥の我谷という土地に、我谷彫(わがたぼり)といういわば冬仕事の民芸品がある。栗の木を粗く彫っただけの、いかにも素朴な味わいのものだ。何年も使っている間に、手垢や栗の木のアク、煤などでいい艶が出る。その艶を、漆で出す仕事を、大下さんは何年も前から手掛けている。
数は少ないが、今回も我谷彫の盆や銘々皿が展示してあり、華麗な蒔絵の棗たちと好対照を成している。
民芸品の極致のような我谷彫を、お茶の世界に取り入れようという発想は、「茶道具と食器の接近」というテーマを持たない人には、まず生まれないだろう。
大下さんは、他の人の塗り物はあまり見ない。むしろやきものとか金工とかガラスとか
、隣接する他ジャンルのものに触発されることが多いという。例えば鱗文は能衣装からとってきたものだし、加賀蒔絵は友禅と影響関係にあることはいうまでもない。
「勝手にいろいろな形を作るものだから、お茶の世界の方によく怒られます。でも、壊すつもりはないけれど、いつもいつも同じでは面白くない。根がデザイン屋ですから。この瓢文の高杯は干菓子器のつもりですが、客が少人数のときや貴人の場合は、高台がついてたほうがいいんじゃないかという、ひとつの提案です」
大下家では若い後継者が育ちつつあり、教えるのに時間をとられて、なかなか自分の時間が持てないと、楽しそうにグチをこぼす。細かい仕事は、もう彼らに任せ、最近は下地塗りをやっているとのこと。下地も仕上げも加飾も、本当は1から10まで全部自分でやりたいのである。ようやくそれが可能になってきたのではないか。「年をとると目も弱くなるし、根気もなくなる」という本人の弱音とは裏腹に、大下さんの仕事は、これから一段と面白くなるような予感がする。
「大下宗香 漆芸展」は2001年9月6日(木)〜9月11日(火)まで、東京・新宿の益田ギャラリー(TEL03-3362-3281)で開かれている。10時〜18時、最終日は16時まで。大下さんが会場にいるのは6日〜8日の3日間。
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