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| FLOWER-1 |
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ギャラリーに入った瞬間、息をのむ。まだ一つ一つの作品をじっくり鑑賞しているわけではないのに、パッと目に入ってくる「総体」(別の言葉でいえば「エッセンス」だろうか)に、すくむような感じになるのである。幸福に、少しおそれの混じったような感覚・・。
個々の作品と対すれば、まさに「目を奪われる」である。しっとりと濡れて輝く肌は官能的ですらある。理由はわからないが、作品は歓びに満ちていて、美しい。あとはためいきをつくほか、なすすべもない。
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乾漆蓮花蓋物 |
11年ぶりの個展だそうだ。なぜそんなに間があいてしまったのかといえば、作品制作の時間がなかったのだ。築地さんの現在の肩書は「石川県立輪島漆芸技術研修所教務課長」である。制作は帰宅後や休日しかない。
「24時間、制作に没頭できるような日が何日か続くといいんですが、なかなかね」
「これ(個展のこと)で人生をおくれたら、本当にしあわせなんですけど、いかんせん、ね」
と築地さんはいう。
築地さんが勤める研修所は「重要無形文化財保持者(人間国宝)の技術伝承者養成」施設である。研修所の運営や指導は、日本の漆芸の生命線といってもいい。作家としての仕事を制限しても、やらなければならない。
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| 金彩小物入れ-2 |
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11年前から、自分の作品は1年に3点だけを制作してきた。それを公募展に応募するのが、築地さんの「作家活動」だったのである。それでも、プロフィール欄には割愛せざるを得ないほど数多くの賞を受賞しているのだから、すごいのである。
築地さんのテーマは一貫して自然界の形だ。今回は「花」と「流れ」である。花はわかるが、流れとはどういうことか。
「昔から山が好きで、よく登っていました。岩と岩の間に水が流れ落ちているのを見たりすると、取りつかれたように見入ってしまうのです。漆の表現を静と動に分ければ、静の印象が強いと思います。漆は粘りけがあるので、作業もゆっくりしかできない。スピードのある動きは漆の仕事の中に入ってこれないんです。つまり、流れというような動的なものを漆で表現するのは、しかも器に置き換えるのは、とても難しい」
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乾漆溜塗蓋物「流」 |
作品でいえば、そのものずばり「流」と題された乾漆の蓋物の流麗さ、金彩小物入れは連作で、こちらは華麗な流れである。
築地さんは木地からすべて自分で作る。今回の作品も、外注したのは香炉の金属の部分だけだそうだ。もともと木に魅力を感じていたことが、漆の道に進んだ理由の一つなのだ。芸大で木を学べるのは漆芸科しかなかったからだ。木への思いは堂々たる「栃溜塗盤」などにも現れているが、しかし、現在は乾漆が専門なのだから、人生はわからない。
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| 乾漆蒔絵箱「静夜」 |
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「私が共感し、影響を受けた先生が二人います。お一人はきゅう漆(塗りのこと)の先生、もうお一人が蒔絵の先生です。きゅう漆が乾漆になるわけですが、どちらも捨てられない。それで乾漆に蒔絵を組み合わせたりしています」
「静夜」と題された乾漆蒔絵箱はその一例。乾漆に蒔絵を施すというのはあまり聞かない手法である。しかし、面白い話だ。
これだけ美しいと、日常的に使うのは難しい。そのへんを築地さんはどう考えているのだろう。
器か、美術品か。
「一般的な常識では、使い切れないかもしれません。見て楽しむのも機能の一つなので、手元に置いていただいて、幸福感を感じてもらえたらうれしいと思います。ただ、使ってもらえるなら、もちろん使っていただきたのです」
最初に、築地さんの作品は「歓びに満ちている」と書いた。
お話をうかがっていて、一つ腑に落ちた気がしたのは、築地さんにとって、制作の時間は至福の時間なのではないかということだった。制作時間が少ない分、制作できる歓びは濃密なはずである。それが作品に反映しているのではないか。
築地さんの作品は、生活臭から解放された、不思議な純粋さを漂わせている。
「築地久弥漆芸展」は9月19日(木)〜9月28日(土)まで(ただし日曜は休み)、東京都中央区銀座7-2-22
同和ビル1階 ギャラリー田中(TEL03-3289-2495)で開かれている。時間は午前11時30分〜午後7時(最終日は午後5時まで)。
岡崎 保
| 築地久弥(つきじ・ひさや)さんのプロフィール |
1957年 東京都生まれ
1980年 東京芸術大学美術学部工芸科卒業
1981年 第21回伝統工芸新作展入選、以後7回入選
1982年 東京芸術大学大学院美術研究科工芸修了
第29回日本伝統工芸展入選、以後12回入選
以後も公募展に作品を応募し、数々の賞を受賞している。現在、日本工芸会正会員、石川県立輪島漆芸技術研修所教務課長 |
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