■開発の動機は何ですか。
須藤 それはやっぱり伝統的な会津塗商品の低迷ですね。漆が市場性を失って化学的な塗料に置き代わっているんです。漆は万能で優秀な塗料ですが、まず価格の問題があります。他の塗料と違って、乾くのにものすごく時間がかかる。何とか工期を短縮できれば、コストダウンできるのではないか。もうひとつは塗膜ですね。いまは、今日塗ったものが明日は東京に並んでいる、そういうめまぐるしい時代なんです。ところが、梱包したり並べたりしているときに、傷ついたり不良品が出てしまう。塗膜をもう少しいまの時代に合わせられないか。被膜も必要だろう。漆のいい面を残しながら、作業性を高めたり、塗膜を硬くしたりするにはどうしたらいいか。そう考えていたときに、紫外線照射すると秒速で乾くUV塗料とブレンドできないかと思いついたんです。空想、夢物語ですよ。ダメもとでやってみようか、という程度でした。
■速乾性というだけなら他にもいろいろ塗料はあったのでは?
須藤 UV塗料は揮発性の有機化合物を塗膜に残さないという特徴を持っています。いま問題になっているシックハウスなどは起こしません。安全度が高いのです。
■それで、どんなところから始めたのですか。
須藤 単純に混ぜるところから始めました。もちろん、そんなことで済むとは思っていませんでしたが、やはりダメでした。乾かないのです。UV塗料は紫外線に当たって、光重合硬化という形式で乾く。一方漆は、ラッカーゼという酸化酵素の働きで乾きます。乾燥方式が違うのだから、乾くはずがないのです。ただ、極端な比率にすれば乾く可能性があることはわかった。たとえば漆9にUV塗料1の割合なら、漆の乾燥方式で、乾くことは乾きます。異物が入っているので、100%漆よりもかえって遅くなるのですがね。
■しかし、それでは意味がないでしょう。
須藤 ただ、1割のUV塗料を混ぜただけでも、塗面が多少傷つきにくくはなります。逆の1割だけ漆を混ぜたUV塗料を乾かすのだって、大変な技術なのです。
■どうして5対5近辺までもっていくことができたのですか。
須藤 漆はいじらないで、まずUV塗料をいろいろいじってみました。両方いじると収拾がつかなくなりますから。それまでは硬い塗膜を作ろうとして、同じUV塗料でも、高硬度のものを使っていました。それだと塗膜が割れたり剥がれたり、濁って乳白色になったりします。10種類以上実験して、最終的に3種類に絞りました。次に漆を見直しました。既にラッカーゼを活性化させ、従来の漆よりも早く乾く漆を持っていましたから、これを使ってみました。この漆は、会津塗の中塗を時間短縮するために開発したもので、これだとある程度の湿度があれば、厳冬期でも大がかりな加湿装置がなくても乾くのです。こうして5対5近辺の比率も可能になりました。
■最終的に理想の比率はいくつになったのですか。
須藤 それは用途によるのです。また、いまお客さまからの要望が千差万別で、毎日毎日、その要望に合わせた含漆UV塗料を作っているというのが現状です。平成8年に最初の特許を取ってから5年が経ちますから、いろいろのことができるようになってはいますが、まだまだ改良の途中といっていいと思います。
■今度は市橋さんにうかがいますが、どういうことでこの事業に参加することになったのですか。
市橋 私は市橋漆工芸有限会社という漆器問屋をやっている者です。県のほうから含漆UV塗料を開発したので、具体的な事業として立ち上げたいという呼びかけがあったのです。会津にどうしたら仕事を引っ張ってこれるかが基本コンセプトで、最初は事業組合という形がいいのではないか、という話もありましたが、結局、会社を作ろうということになりまして、8名が出資して「ユーアイヅ」という株式会社を作りました。私はその2代目の社長です。
いま日本の漆器総生産額はおそらく500億あるかないかぐらいだと思います。そういう絞り込まれたマーケットでどう生き残るかを考えても、たいした企業にはなれません。そこで、とりあえずマーケットを少しでも広げたい。そのターゲットとして住宅内装部材をとらえたのです。建設業界、住宅業界は何兆円という産業ですから、その何パーセントでもいいからこっちにもってこれないかと思っているわけです。競争が激しいことは承知していますが、特許もあることだし、漆がまだまだ浸透していける余地が、内装の分野にはあるはずです。現在はまだ企業として成立するほどの収益は上げていませんが、がんばっているところです。
- ■具体的にはどんな用途が可能ですか。
市橋 内装部材では床柱、天井、襖、階段、フローリング、システムキッチンの扉、小さいところではコンセントカバー、襖の引き手などなど、インテリアではテーブルやカウンターなど。応用編としてはパソコンの筐体とか仏壇などの宗教用品、文具などはすぐ思いつきます。1回の発注量が多すぎて、つまり私たちの仕事のサイズとかけ離れていたので実現はしませんでしたが、携帯電話なども企業規模が大きくなれば対象になるでしょう。
■漆器には使わないのですか。
須藤 原則として漆器には塗らしていません。というのは、漆器に含漆UV塗料を使う必要はないからです。漆器は従来の方法で十分間に合う。むしろだぶつき気味です。含漆UV塗料というのは、会津塗という本流から派生して生まれたもので、これが成長して本流がその恩恵にあずかることはあっても、本流が悪影響を受けるようなことがあってはならないということなのです。
市橋 須藤さんとは少しニュアンスが違うかもしれませんが、私はいまの職人さんたちの仕事を奪うのではなくて、仕事を増やすような形をとれるのなら、漆器もやりたいと思っています。
■含漆UV塗料を使うと、値段的には安くなるのですか。
市橋 よく聞かれるのですが、工程は通常と変わりません。むしろ、紫外線照射に耐えるためにガッチリ下地を作っています。ですから、むちゃくちゃ安いというものではありません。ただ、従来の手塗の技法でやった場合に比べれば、納期が短縮できる分単価ダウンにはなっています。たとえば、輪島の呂色磨きの商品よりは格段に安いはずです。同じフローリングでも、木曽の檜のフローリングの半分ぐらいではないかと思います。
■含漆UV塗料だけを、たとえば缶詰にして販売することなどは考えていないのですか。
市橋 実はそのほうが儲かるかもしれません。でも、塗料だけあっても使い方がわからないのです。A液とB液を混ぜれば乾くというような塗料ではないからです。使い方を教えなければならないわけですが、私たち自身が研究半分、営業半分という状態で、第三者に教えるレベルに達していないというのが現状です。
須藤 産地に仕事をもってくるという基本コンセプトからいえば、塗料だけを販売するのは派生的な事業で、メインの目的ではないですね。
■含漆UV塗料は今後どんな改良が可能ですか。
須藤 含漆UV塗料ではまだ色が出せません。しかし、これについては技術的にはほぼ完成しているのですが、実用化がまだできていないということです。それから品質をもっと上げなければいけません。たとえば、コンベアで流して紫外線照射する場合があるのですが、コンベアのスピードなども品質に影響します。そういう細かいところでも改良の余地がまだまだあります。そして、最終的には漆に近づけることが目標ですが、同時に、いままで漆を使えなかった分野、たとえば住宅産業とかに進出していくことが、会津若松にとっては非常に大切です。これから会津の若い人たちが漆の仕事につけるかどうかがかかっているのですから。
■長時間、ありがとうございます。
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こんなものも作れます
(携帯電話、コンセントカバー、万年筆) |
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