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漆芸品の修理・修復を専門に行う「京都漆芸修復研究所」が開設
国宝クラスの文化財なら、傷んでくれば修理や修復の手だても講じられる。しかし、そこまで行かない幕末・明治ごろの漆芸品は、名品とはいえ、なかなか手をかけてもらえないのが現状だ。特にひどいのが海外に流出した漆芸品で、荒れ放題といっていい状況にある。

10月、何とかしなければという漆関係者の思いが、ひとつ現実の形になった。それが京都東山に開設された京都漆芸修復研究所だ。

所長の村田理如(まさゆき)さんは、「清水三年坂美術館」(昨年9月にオープンした幕末・明治の工芸品を集めた美術館)の館長でもあり、美術工芸品のコレクションでは世界的に名を知られた方だ。あいにく村田さんにはお会いできなかったが、所員の岡田さんに、今後の活動などについてうかがった。

■開設までの経緯を教えてください。

京都漆芸修復研究所の玄関

岡田 日本の美術館や博物館は、平安や室町など古い時代の漆芸品には興味を示しますが、幕末・明治ぐらいの新しい時代のものには比較的冷淡です。

いきおいそれらは海外に流れるわけですが、気候も違うし、専門的な知識もないために、荒れ放題というのが現状です。このままでは価値を失ってしまう名品も数多い。修理・修復の必要性は、私たち漆関係者の間では以前からいわれていました。

こうした思いと、海外から主に幕末・明治の工芸品を里帰りさせている村田さんの思いが一致したということです。6月に、私たちがソフトを提供し、村田さんがハードを提供するということで話がまとまり、一気に具体化しました。準備を始めたのは8月のお盆過ぎですから、大忙しでした。

■こういった組織は、ほかにあるのですか。

岡田 少なくとも関西では聞いたことがないですね。京都の国立博物館に国宝修理所というところがあります。ただ、表具や仏像関係が主で、漆芸品を専門にしているところはないですね。文化財までいかない漆芸品の修理・修復は個人的に頼まれるというのが大半でしょう。

ところが修理・修復という仕事は本来一人では無理なんです。木地、塗り、加飾、全部にかかわってくるトータルな仕事ですから、それぞれの専門家がチームを組んで行うのが理想です。私たちの研究所は専任の漆芸家が5人に外部スタッフが大勢いますから、理想に近いと思います。

■具体的にどういう手順で作業は進むのですか。

岡田 修理する品物を前に、まずスタッフ全員でミーティングをします。

廃業した料理旅館を借りた研究所の内部。広々としている

どこを、どういう方法で、どこまで直すかを検討して修復基本方針をつくります。そしてパソコンやデジカメを使ってカルテを作成します。またそれに基づいて費用の見積りを出します。「やってみなければわからない」という仕事の仕方はしません。

見積りよりお金や時間がかかったとしても、追加請求はしません。それはこちらの責任ですから。基本方針と見積りを持って依頼者と打ち合わせをするということになります。

■個人からの、例えば代々伝わる椀を直してほしいなどという依頼もOKですか。

岡田 まだ開設して1カ月ですから、いまは仕事を選ばないつもりです。
みなさんに存在を知ってもらいたいし、技術力もアピールしたい。ただ、目指しているのは海外の漆芸品の修復です。最初、この研究所をロンドンで立ち上げようという話があったぐらいです。

■海外の漆芸品の状況はかなりひどいのですか。

岡田 漆芸品の修理・修復に関する考え方が、外国と日本では全然違います。

外国で直したものを見ると、ニスに金色のポスターカラーを混ぜたものを塗って、傷をわからなくしてあったりします。陶器や絵画は何とかなるかもしれませんが、漆は外国人にはお手上げでしょうね。

外国の事情に詳しい友人に聞くと、100年や200年で終わるような仕事ではないといいます。それだけたくさん海外流出しているということです。

■海外での漆芸品の評価は高いのですか。

岡田 サザビーやクリスティーズなど、海外の大きなオークションでは、蒔絵が動き始めるとほかの日本の古美術品も動き始めるといわれています。

つまり海外の美術市場で日本の古美術品の動向を占うものさしになっているのが蒔絵です。日本では隅のほうに追いやられた観もある漆芸品ですが、海外での評価は非常に高いのです。

フラットな金地についた傷を直すのは難しい

かたわらの人形は外国からの依頼品

■修理・修復という仕事は、自分の作品をつくるのとは全然違いますか。

岡田 まったく違います。自分の製作は、終わったときは満足感でいっぱいになりますが、修理・修復の場合は肩の荷を下ろしてほっとした感じですね。これで依頼者が満足してくれるだろうか、という一抹の不安もあるわけです。

依頼者には直ったときのイメージがしっかりあるので、そのへんを事前によく話し合わないとトラブルのもとになります。また、修理・修復とひとくちにいっても、文化財の修復と、そうでないものとの修理は全然違います。

文化財の修復は、損傷がこれ以上ひどくなるのをストップさせるために行う保存修理です。それに対して個人の所有物の場合は、壊れたものを元の形に戻してほしいという依頼がほとんどです。化粧のし直しですね。自分の作品は、ある意味では無責任ですが、人さまの大事なものを直すわけですから責任重大です。

もっといえば、私たちスタッフは当番を決めて当直しています。直す以前に預かった責任があるわけで、誰もいない状態には絶対しないようにしています。

■意義あるお仕事だとは思いますが、心配なのは経済面です。

岡田 夢を食べていこうと、みんなでいっています(笑い)。コンビニでアルバイトするぐらいにはなるだろうと。とにかく早い段階で結論を出そうとは思っていないんです。5年後、10年後にどんな仕事をしているか、そこを見ていただきたい。

■ありがとうございます。

京都漆芸修復研究所
〒605-0826 京都市東山区高台寺南門通下河原東入桝屋町363-22
Tel 075-533-6662 Fax 075-533-6160
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