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厨房を偵察する。大柄な光彦氏が前日から作っているシチューを温める。浩美さんは鶏肉を焼く。てんてこ舞いである。
朱溜塗りの鉢をワインクーラーと花器に使っている。フラワーアレンジメントは浩美さんだそうだ。
食前酒のグラスのことで、何やらもめている。
ビンガーはサトウキビから作ったスピリッツで、ブラジルを代表する庶民の酒だそうだ。グラスの中でライムをつぶし、そこに水と氷で薄めたビンガーを注いで飲む。
美沙 ライムは切子のグラスに浮かべるの? 3個しかないよ。
光彦 いいよ、これで。
浩美 これはワイングラス。ワインは別に飲むでしょう。
美沙 あなた、2個もってくるっていったじゃない。
光彦 あるかもしれないっていっただけだよ。
浩美 じゃあ、どうするの!
光彦 すごく小さいアンティークのグラス、あったじゃない?
美沙 あれだとライムが入らないよ。
光彦 ライムはべつに浮かべなくてもいいよ、しぼっちゃえば。
浩美 浮かべたほうがいいよ。いいじゃない、2個で。
女性2人との議論に敗れた光彦氏は、黙々と寿司を作る。
「この家の包丁がもう少し切れれば、この鮭をスパッと切って握りにするんだけどなあ。こう崩れるんじゃ、軍艦巻きにするしかないよ」
黒溜塗漆俎板皿に寿司を盛りつける。
浩美さんは本朱漆椀にシチューを盛りつける。
この「ケベック風肉団子」というネーミングは解説が必要だ。光彦氏はこう語る。
「仕事(映像プロデューサー)で外国にはよく行きます。カナダにも行ったことがあります。ただ、このシチューは、八ヶ岳にあるケベック料理の店で食べたものをマネしたのです。ケベック風とは何のことなのか、ぼくもわかりません。肉団子にシナモンを入れますが、それのことかなあ。いつもはトマトソースかデミグラスソースにしますが、今日は朱の漆椀なので、あえて白にしてみました」
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