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うるしはむずかしいものと思っている人が多い。しかし、それは誤解である。
たしかに時間はかかる。でも、逆にいえば、時間さえかければ誰にでもできる。最初は習うわけだが、初心者でも仕上がりはドーシテドーシテ、なかなかなものができる。
自作の器を、実際に使ったり、友だちに見せびらかしたり、腕が上がれば展覧会だってできるかもしれない・・。
いくつかの漆芸教室を取材して、ご紹介する。第1回は老舗の播与(はりよ)漆工芸教室で"授業参観"してきた。

店内に飾られた漆の塗り見本 |

播与漆行の玄関 |

播与漆行の店内。木地や漆関連の書籍などが並ぶ。 |
株式会社播与漆行(はりよしっこう)のルーツは江戸時代、大阪にあった漆問屋である。漆を商う店としては国内で2番目に古い歴史をもつとのこと。
場所は山手線・御徒町の駅から歩いて8分ほど、昭和通りからちょっと入ったところにある。1階が店で、2階に教室が3つある。
主宰する箕浦和男さんによると、生徒さんは20代から80代までさまざま。女性は腰をすえてじっくり習おうとするのに対し、男性は、先生の一言半句も聞き漏らすまいとしてノートをとる人がいたりするほど、すごい意気込みでやってくる人が多いという。
最初は1、2年のつもりでも、結局10年以上も通っている人がザラだそうだ。
時間割を見ると、漆芸全般なんでも習える「漆芸」という講座もあれば、蒔絵や沈金を専門的に習ったり、指物や七宝・彫金、いまはやりの金継ぎの講座もある。
自慢は少人数制の授業、そしてなんといっても講師陣だ。芸大出身の第一線で活躍する作家が多い。生徒の中にはプロになった人、プロを目指す人もいるという。

授業風景 |

柴田克哉先生 |

吉満さん |
さっそく授業を見学する。おじゃましたのは、柴田克哉先生の「漆芸」の講座だ。
生徒さんは4人。中央に作業テーブルが置かれ、右側の壁一面が作品を乾燥させる風呂になっている。みなさん、神経は手のほうにいっているが、ゆったりと会話が流れ、通ってきた昭和通りの喧騒がうそのような別世界である。
4人とも通い始めて3〜4年だそうだ。マイペースで思い思いの作品を製作している。わからなくなれば先生に聞く。
「大丈夫。研ぎ出せば色は出るから。黒を2回、朱を2回塗りましょう。」
先生が指示を出す。
「いちばん大変なのは先生。私たちは、こういうの作りたいとか、勝手にいっているだけですから。」
と奥で刷毛を使っていた米田さん。吉満さんも賛成する。
「私なんか、『先生、私は今日何をやればいいの?』っていう感じだものね。」

ざる豆腐のざるを使って一閑張りを作るという |

風呂の中には製作中の作品が |

鎌倉彫を塗る藪田さん |

合鹿椀に取り組む小泉さん |
鎌倉彫の塗りをやっていた藪田さんは、
「残念ねえ、もう少し早く取材にくれば、すばらしい茶托があったのに。家にもって帰っちゃったのよ。」
柴田先生の教育方針を聞いてみる。
「そんなのないですけど、あえていえば、手を抜かないでやろうよということですね。インスタントにパッとできちゃうんじゃ、かえって楽しくないですから。」
男性の小泉さんがあいずちを打つ。
「王手、飛車取りはないね、漆には。」
生徒さんが作りたいといえば、何でも作らせてくれるのだろうか。技術的にまだ無理ということはないのだろうか。

雑談に出された菓子の器は生徒さんの作品 |
「止めたりはしません。時間はかかるけど、だれでもできますから。人間には器用、不器用は基本的にないんです。不器用と思っている人が不器用なだけです。」

刷毛を使う米田さん |
米田さんがノコギリを持ち出して、作業を始めた。聞いてみると、乾漆で作った筒を輪切りにして、ナプキンリングを作るのだという。ノコギリを柴田先生が手伝っている。
授業終了後、1階でお茶を飲むのが恒例になっている。ここでは先生はむしろ聞き役である。この日は小泉さんの骨董話に盛り上がった。
「作家仲間とうるしの話をするのとはまた違った楽しさがありますね。教えられることが多いんです。」
柴田先生の述懐がわかるような気がした。

授業終了後の雑談が楽しい。左から: 藪田さん、吉満さん、柴田先生、小泉さん、米田さん。 |
文: 岡崎 保
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